奈緒
一月最後の土曜日のこと。通常、土曜日は学校が休みだが、この日はクラス全員が朝早くから教室に集っていた。窓の外は雪が降っている。中学で初めての合唱祭本番を迎えた。課題曲の「雪の降る街を」がピッタリの朝だ。
「最後の練習をしよう」と指揮者担当のクラスメイトが主導する。三〇分くらい練習した。本番までの時間はあとわずか。
「レモンの蜂蜜漬けを持ってきたよ」
音楽部の女子が、大きなタッパーを取り出した。タッパーにはたっぷりと蜂蜜が入っていて、薄切りにしたレモンが広く敷き詰められている。この日のために、蜂蜜にレモンを漬け込んだそうだ。クラス全員、四五人分。レモンは、蜂蜜のなかでハーモニーをうみだしているように見えた。一人1枚ずつ、口にした。ほんのりと甘い蜂蜜の香りが、レモンの果汁と混ざり合って、口のなかに広がる。レモンの酸っぱさは、蜂蜜の甘さで緩和されて心地よい。クラスのみんなと同じ味でつながった。合唱祭では入賞できなかったが、クラスメイトとの思い出ができた。あの日の蜂蜜は、緊張感をやわらげてくれる、大切な存在だった。
(完)
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