徳田 有美
お見合いで出会ったその男性は、高学歴、高収入、温厚そうな人柄と、申し分のない人だった。唯一、私が受け入れられないところがあったとすれば、彼の趣味が「蜂」だったことだ。
私は、女性に特有の昆虫嫌いである。ゴキブリもダメ、蟻の行列もダメ、ましてや蜂の巣など、見ただけで鳥肌が立つ始末だ。
お見合いは順調に進み、次第に饒舌になった彼が、蜂の魅力について語りだした。何でも家には彼が今まで貯めてきた蜂の収集箱が数箱あるとか、その年の夏休みには、軽井沢まで珍しい蜂がいると調べ、蜂収集目的で行ってきたのだとか。家の軒下には、まんまるに大きく育った蜂の巣を後生大事にぶらさげていてその成育状況を見守るのが日課だとか。
親御さんを早くに亡くされた彼は、同居を望んでおり、嫁になるならばその蜂の家に入らなければならない。私はあらゆる可能性の取捨選択を頭の中でした上で、申し訳なく思いつつ、はっきりと聞いた。
「蜂の箱だけでも捨ててもらえませんか」
案の定、私はそれから十分後には、最寄りの駅で、車から蹴落とされていた。私はしおしおと家路についた。
その晩、仲人さんにこっぴどく叱られた。「どうして、彼の唯一のこわだりを捨てろなんて言えたかねぇ、この娘は」
すみません、すみませんと謝りつつも、心の中では、蜂への恨みが募るばかり、私は悪くないと開き直る一方だった。
あれから数年、私は未だに独身でいる。蜂は未だに怖いが、年齢だけ重ねた身体は、いつしかローヤルゼリーを求めるようになってきた。女って勝手な生き物だなぁと思いつつ、こだわりを捨てない男性も、女性には理解しがたい蜂のように、奇妙な生き物だと改めて思う。
(完)
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