はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

蜂蜜エッセイ応募作品

最優秀賞 第一回蜂蜜エッセイ最優秀賞

 

ぜったいなめちゃダメよ

高田 智子

 

 「ぜったいになめちゃダメよ」
小さな頃、熱を出してくちびるがカサカサになると、母さんは、はちみつをぬってくれた。ふとんのなかで寝込んでいるわたしのもとへ、母さんは、はちみつのビンを大事そうに抱えてやって来て、シュガースプーン一さじ分のはちみつをぬってくれた。スプーンの背のひんやりとした感触は、熱っぽいくちびるに心地よい。ぽってりとしたみつの重みをくちびるで受け止める。ぬり終えると、母さんは、ビンのふたをキュッと固く閉めた。
 「ぜったいになめちゃダメよ」
なめちゃダメと言われれば言われるほど、なめたくなる。ああ、なめたい。この甘みを今すぐ口に含みたい。その誘惑から逃れるのは至難の業だ。
 「おとなしく寝てるのよ」
母はそう言い置いて、仕事へ出かける。家にだれもいなくなったら行動開始だ。くちびるのはちみつを、舌を出してひとなめし、むっくり起きて台所へしのびこむ。ビンは高い戸棚の一番奥。食卓から椅子を運んでビンを取り出す。黄金色にかがやくとろとろの液。そのあとは、さながらクマのプーさんだ。台所の床にぺたんと座り込み、なかば熱にうかされて、一さじ、もう一さじ。はちみつのこっくり甘い誘惑にあらがうのは至難の業だ。風邪っぴきのひそやかな楽しみ。
 (ミツバチさんが、すみれやバラの花から一生懸命集めてきたみつを、こんな無駄づかいしてもいいのかしら)
 途中、かすかな罪悪感にもさいなまれた。それでも、スプーンを動かす手は止められない。
 「いい子にしてた?」
仕事から帰った母が、わたしの額に手を当てる。わたしは、はちみつでくちびるをしっとりさせ、すやすや眠りについている。
 大人になり母となった今、わたしはかつての母と同じことを娘にしている。イチゴやピーチのフレーバーのリップクリームをねだる娘のくちびるに、はちみつが一番と、やさしくぬってやる。
 「ぜったいなめちゃダメよ」

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

はちみつ家メニュー

Copyright (C) 2011-2018 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.