ミツバチと共に90年――

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日本ミツバチ捕獲大作戦(1)

(1)捕獲

今回の依頼は小布施町にあるとある神社からである。

「秋のお祭りの日までになんとかしてほしい」
聞けば巣営しているのはミツバチで、
「人が大勢集まる秋祭りに、万一子どもが刺されでもしたらたいへんだ」
と言う。

たいてい神社などに巣を作るミツバチは和蜂で、彼らは西洋ミツバチに比べて性格もおとなしく、滅多に人を刺すこともないが、放っておけばやがてスズメバチの標的となり、やつらを招く原因にもなる。

だから日本ミツバチの駆除依頼というのは、「駆除」というより「引っ越し」で、巣箱を介した吸引器で彼らを吸い込み、そのまま巣箱を蜂場へ設置するという方法をとっている。
だが和蜂というのは非常にデリケートで、巣箱に居ついてくれるケースはおよそ3回に1回程度である。
だから「引っ越し」というのも多少ニュアンスが違い、この物語は「捕獲大作戦」という言葉を使うことにした。

ちなみに日本在来のそのミツバチ、呼び方を和蜂と言ったり日本蜂と言ったり、あるいは日本ミツバチと言ったり様々あるが、ここでは特にこだわることはしない。

下見を終えて本日、いよいよ捕獲大作戦の決行である。

いつものトラックに乗ったのはケンちゃん社長とはちぶんで、今回のはちぶんの目的は駆除の様子を写真におさめ、ブログのネタにすることである。

小布施の神社に着くと、惣代さんであろうか、建物の周辺をきれいに手入れしている男性が「ごくろうさん」と迎え入れてくれた。
人の良さそうな依頼主である。

境内には樹齢数百年とも思われる大きなケヤキが立っていた。

その大きさから長い歴史のある神社であることが知れる。
こういった建物は、古い木造である上に、普段はあまり人も来ないから、和蜂にとって非常に住みやすい環境なのだ。

現にこうした神社、仏閣の床下や屋根裏に巣営した日本ミツバチの駆除依頼はことのほか多い。

見れば正面向かって右側の柱に「蜜蜂に注意」との張り紙がしてあり、柱と壁の間にできた小さな穴から、彼らはさかんに出入りを繰り返していた。

建物の中、年季の入った床の下、おそらくそこに彼らの住み家があるはずだった。

注意してよく見ると、案の定、床のすき間から彼らが列を作って外に出入りしているではないか。

その数から相当大きな巣であることは予想できたが、床をはずしてみないとその大きさや規模は分からない。
さっそく作業にとりかかる。

メインの道具は吸引器とホース、それと彼らの新しい家となる巣箱。
吸引器でねこそぎ彼らを吸い込んでしまおうというのである。

発電機を回して電気をおこし、延長コードを伸ばして明かりと吸引器の電源を入れた。
そして床の上のゴミやほこりをきれいに掃いて、いよいよ床板の取り外しにかかる。

ところがこの神社を建てた大工さん、よほどの腕利きとみえて打ち込んだ釘がなかなか抜けない。

ケンちゃん社長は大工さんではないので、悪戦苦闘しながらやっとの思いで釘を抜き、はちぶんも手伝ってようやく床のベニヤ板を取り外した。

「巣の全貌が見えたぞ!」
大きい!

ファイル 650-1.jpg

「これは3年ものだなあ」
ケンちゃん社長がつぶやく。
なるほど巣は何層も重なり、蜜もたっぷり含んでいる。
この規模になるとミツバチの数は2万匹をくだらないだろう。

うまそ~!!

ミツバチの捕獲よりそっちが気になるはちぶんである。

吸引器のホースの先で日本ミツバチを吸い込む作業に入った。

吸い込むといってもダイソンの掃除機というわけにはいかない。
相手は生き物であるし、弱らせてしまうことはできないのだ。
その力はそよ風にも似て、わずらわしくなるほどゆるやかなのだ。

やがて巣の下にたらいを置いて受け皿にし、鉄べらで巣の根元を一気に切り落とす。

なかなか落ちないが、やがてねっとりと下に落ちた。

重そう~!!

おおっ!

光を入れればハチミツの金の光は、まるで海賊が洞窟の中に隠した宝石ではないか!

ファイル 650-2.jpg

「よっこらしょ。こりゃたらいひとつじゃ足りない!」

2つ目のたらいを置いて再度巣の切り落としにかかったケンちゃん社長は一人で働く。

ガンバレ~

写真を撮るだけのはちぶんは面白がって見ているだけなのだ。

だいたい取り終えたか?
見て見て!これだけの巣が採れました!

ファイル 650-3.jpg

ケンちゃん社長は残りのミツバチの吸い取りに必死。

しかしホースが詰まってしまったのか吸い取りの力が弱まって、なかなか作業がはかどらない。
それを横目にはちぶんは採れたてのハチミツを舐めてみた。

甘いのう~!

この辺りは小布施だけあってクリの木が多い。
きっとクリの蜜も含んでいるのだろうが、和蜂の集める蜜は基本的に百花蜜である。
だから巣営する場所や地域によって、日本バチ蜂蜜の味はその都度違う。
今回の蜜はキャラメルのようなまったりした甘さにコクがある。

そうこうしているうちに吸引器の威力が復活し、気付けばケンちゃん社長はいくつもの防虫剤を置いた。

これでひとまず床下の作業は一段落だ。
すると和蜂たちはここにいられなくなり、一斉に外へ逃げ出すはずだ。

外に出てみれば最初に見た穴から無数のミツバチが逃げ出していた。

すかさずそれを吸引器で吸い込む。
おっと!下のコンクリートのすき間からも!

最後は板をもとに戻して、べニアも元通りにして。。。

言っておくがケンちゃん社長は大工ではない。

外のミツバチの様子が気になって出てみれば、再び穴からぞくぞくと逃げ出している。

少しは手伝った方がいいかなと思ったはちぶんは、吸引器を手にしてミツバチを吸い取った。

それにしてもきりがない。次から次へとミツバチが。。。

ええ~い、必殺!入り口封じ!

ファイル 650-4.jpg

こうやって入り口のところに吸引器の口を置いておけば、逃げ出すミツバチを次々に吸い込むことができるのだ!

こやって本日確保した和蜂の巣を見ていただこう。

ファイル 650-5.jpg

一面蜜ぶたに覆われたスーパー完熟蜜じゃあ!
中にはたっぷりハチミツがっ!

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