《上海観光(豫園)》
昨日キャリーさんが言っていた。
「かなり美味しい小龍包が食べれる店がある」
と!
これまで“食”には苦しめられ続けてきたケンちゃん社長とはちぶんは、世界を旅するキャリアウーマンが絶賛するその味を知りたくて仕方がない。
そんな思いを知ってか知らずか、次にノッポさんが連れて来てくれたのは、『豫園(よえん)』と呼ばれる『外灘』と並ぶ上海の2大観光スポットのうちのもう1つの方である。
かつては東南地方一とも称された明代の庭園で、「豫園」とは「楽しい園」という意味らしい。なるほど伝統ある中華的な建物が立ち並んでおり、土産屋や飲食店が軒を連ねている。
ちょうどお昼どきで『南翔饅頭店』という店で『小龍包』を食べることになった。
ところがかなりの人気の店で、入り口には行列ができていた。
「今がチャンス!」
とばかりに、はちぶんは我慢していたタバコを吸いに、灰皿めがけて飛んでいった。
西安で飛行機に乗る際、リュウさんに買ってもらったライターは没収されてしまっていたから、もうライターを買うのはやめにして、ホテルに置いてあったマッチを持ってくることを忘れていなかった。
ところが半分も吸わないうちに、
「はちぶん、中に入るよ!」
とケンちゃん社長が僕を呼んだ。
かなり回転の早い店らしい。
注文したのは一口サイズで6つ入りの小龍包と、なにやら中心にストローが刺さっている見たことがないそれも小龍包。
「火傷するから気をつけろ」
と言われて、ショウガとタレをつけて恐る恐る口にしたところが、
(これがうまい!うまい!)
ケンちゃん社長も
「こんなうまい小龍包は食ったことがない!」
と、2つめを注文した。
気になるストロー付の小龍包は、中のスープを飲むだけで、外側の皮は固くて食べるものではないらしい。
値段は忘れてしまったが、スープだけでこんなに高いのか?と思わせる価格であった。
(写真を撮るのを忘れてしまった!)
飛行機の時間を気にしながらお土産を見て回る。
ケンちゃん社長は烏龍茶を大量に買いこんだ。
店の店員はそんな大口の注文などやったことがないと大わらわ。
ようやく人数分を茶筒?に詰めると、急いで安物ばかり扱う雑貨店に入った。
そこでケンちゃん社長は、午前中視察した「蜂之語」で飾ってあったのと同じ、左手が電動で動く金の招き猫を買った。
これで鈴木養蜂場も今より商売繁盛だ!
ところが―――!
その雑貨商店街で、はちぶんはとんでもない物を発見してしまった!
あ、あの五丈原で買ったのと同じ、黒いアヒルの羽の孔明様の扇を見つけてしまったのだ!
し、しかも床に直置きの段ボールの中に無造作に入れられているではないか!
はちぶんは恐る恐る手に取って確かめた。
袋も同じ、大きさも同じ……、
(め、めまいが……)
ノッポさんに値段を聞いてもらった。
すると彼は、一瞬合わせた目をすぐにそらした。
「い、いくらでしたか……?
でも、
も、もし僕が聞いてショックを受けるようなら言わないでください」
ノッポさんはすかさず、値段を言わずに、
「でも五丈原で買ったやつは下の方まで羽がありましたから!」
ととぼけた。
(ショ、ショックを受ける値段なのか……)
落ち込みを隠せないはちぶんは、
「なあに、あの五丈原で買ったというところに深い意味があるんですよ!」
と強がったが、ケンちゃん社長はまるで笑い壺にでも入ったように笑い続けた。
(コノヤロッ!)
とは、社長に対してけっして言えないはちぶんである。
もう飛行機の時間に間に合わない!
急いで車が置いてある場所に向かおうとしたケンちゃん社長を呼び止める、押し売り女性の声がした。
日本語で、
「ちょっと見ていって!いいモノあるから!」
といかにも調子のいい口調だ。
ケンちゃん社長はよく声をかけられる。
よほど金持ちに見えるのか?
押し売り女性が手にしていた商品の時計を見ればロレックスで、
「それ本物?」
と社長が言えば、
「ニセモノだよ!いいモノあるからこっち来て見ていって!」
と、しゃーしゃーと答える。
どうやら中国のニセモノ文化もすっかり社会権を得ているようだ。
社長はこう言って逃げてきた。
「うちに『本物』いっぱいあるから!」
物語のしめくくりに、『本物』の中に『天然完熟蜂蜜』の意味をひそませたことを分かっていただけたろうか?
こうして、ぎりぎり搭乗手続きの時間に間に合った鈴木養蜂場中国アカシア蜂蜜視察団が乗り込んだ飛行機は、日本に向かって飛び立った。