以前、ルーカス・クラナッハが描いた同じ題材の絵をご紹介しましたが、今日は別の画家が描いた「キューピッドは蜂蜜泥棒」を紹介したいと思います。
この絵を描いたのはルネサンス期に活躍したドイツのアルブレヒト・デューラーという画家(版画家)です。
父親が金細工職人ですのでその影響もあったのでしょうが、やがてアルブレヒト・デューラーは絵画や版画を学んで国内を遍歴し、イタリアのヴェネツィアへも2度の留学をします。
その際、イタリアルネサンス芸術に触れた彼は、作品の芸術性は勿論のこと、イタリアにおける芸術家に対する社会的地位の高さに驚きます。
当時ドイツでは、芸術家といっても一種の職人扱いだったのです。
ドイツ国内の芸術家の地位を高めようと決意した彼は、やがて版画をひとつの芸術ジャンルとして確立して数多くの作品を残し、一方では宮廷画家となって、ドイツ国内はもとより、その優れた作品で諸外国にまで名声を轟かすことになりました。
紹介した絵は1514年に描かれた神話を題材にした水彩画で、キューピッドがミツバチの巣を盗もうとして襲われ、思わず矢を落としてミツバチの群れから逃げようとしている場面です。
そこに母親のビーナスが駆けつけて何かを話していますネ。でもその顔はどことなく笑っているようにも見えます。
これはギリシャの詩人テオクリトスによって伝えられている寓話で、ビーナスは笑いながらこう言ったといいます。
「あなた、それはミツバチよ。とても小さいけど、痛い傷を加えることができるのよ」
と。
ミツバチは、天の使いであるキューピッドより強いのよという、ミツバチの神性を表しているのでしょうかネ?
ともあれアルブレヒト・デューラーは、ドイツ美術史上最大の画家とも評価されるようになったのでした。