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蜂蜜エッセイ応募作品

初恋の香り

三郎

 

 「まったく! 可愛げのないヤツだ」と口には出さないが、がっかりする私。結婚四十五年目の秋、大枚をはたいてプレゼントした、ダイヤで縁取った翡翠の指輪をチラ見して妻がこう言ったのだ。
 「こんなものより他のものが欲しかったわ」
 サプライズのつもりで指の太さを秘密裏に計測までした私にさらに矢が放たれる。
 「第一、これ、いつ嵌めるのよ?」
 「結婚式とかお葬式とかいろいろあるだろ?」
 「誰の結婚式? ○○(息子の名)はもうすぐ不惑、一生独身で終わるわよ。これから多いのは葬式。仏事にこんな指輪、失礼よ」
 今まで結婚記念日を一度も祝ったことがない罪滅ぼしのつもりだったのに……映画のような感動的な場面を期待していたのに……不機嫌になった私に妻が止めを刺した。
 「今、貴金属って高いの。換金して高級な炊飯器を買っていいかしら。それと今まで食べたことのないようなお料理を作るから」

 翌日の夜、ピカピカの炊飯器で炊いたご飯と神戸牛のステーキにキャビアにファグラまでもがテーブルに並んだ。
 「あなたが言う“釣った魚”への初めての贈り物、嬉しかったわよ。これはお返しだけれど、こんなコレステロールてんこ盛りは今日限り。――もう一つ贅沢をしたの」と妻が見せたのは瓶入りの高級なアカシア蜂蜜五本だった。
 「明日から朝のトーストはバターを止めて蜂蜜にしましょう。私、指輪よりあなたに健康で長生きして欲しいのよ。私より先に逝ったらアカン。お金はたっぷり残ってるから次は蜂蜜をケース買いだわ」
 まだ捨てたもんじゃないなとグッときた私に妻が余計な言葉を足した。
 「それにあなたにとって思い出の香りでしょ、アカシアの花は?」
 初恋の相手とその白い花が香る林でよくデートしたという話を、妻は忘れていなかったのだ。

 

(完)

 

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