はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

蜂蜜エッセイ応募作品

良薬は口に甘し

清原 章夫

 

 私が小学生のころだから、もう五十年ほどの昔になる。毎年冬になると唇が乾燥して、無意識に舐めるという冬季限定の変な癖が発症した。しかし、舐めれば一瞬は潤うが結局は唾液とともに水分がすぐに蒸発してしまうため、さらに乾燥が進むみ、また舐めるという悪循環が繰り返された。
あれは、小学校三年生の冬のある日のこと、炬燵に入ってテレビを見ながら、しょっちゅう唇をなめている私を見かねて母が、台所から蜂蜜の入った大きなビンを持ってきた。
母はビンの中に小さなスプーン入れて、蜂蜜をスプーンに少しだけ取った。それから、母は右手の薬指にその琥珀色の液体を付けて、私のカサカサの唇に口紅を塗るように伸ばしてくれた。急なことに私は驚いたと同時に少し照れ臭かった。そして母は、決して唇を舐めてはいけない、蜂蜜がカサカサの唇を治してくれるからと自信たっぷりに言った。
しかし、私は子供心になぜ薬でも無い、食品の蜂蜜が唇を治してくれるのか不思議に思った。半信半疑で数日間、蜂蜜を唇に塗ったところ、もちろんその甘さの誘惑に負けて時々は舐めたが、すっかり唇は治ってしまった。
そんなわけで、それから数年間は冬になると蜂蜜療法が続いた。しかし、リップクリームが登場してからは、ポケットに入れて持ち運べる利便性から、私は何の躊躇もなくリップクリームに宗旨替えをした。
このようなことを、ふと思い出したので、蜂蜜にはリップクリームとしての薬効があるのかウェブで調べてみたところ、リップクリームは、あくまで保湿だけだが、蜂蜜には、肌荒れを整えるビタミンB群やナイアシンが含まれているため、荒れた唇の回復によく効くとあった。どうやら科学的根拠があるようだ。
ここまで書いて、ふと母はどこからその知識を得たのか気になって、八十五歳の母に聞いてみた。母は私の唇に蜂蜜を塗ったことを覚えていた。そして、母も子供のころやはり冬になると唇が荒れるので、蜂蜜を塗って治したと話してくれた。しかし、蜂蜜を塗ることを誰に教えてもらったかは忘れたそうだ。
結局、蜂蜜療法のルーツはわからなかったが、私の子供時代の唇荒れは母からの遺伝だった可能性があることを知った。そして薬としての蜂蜜は「良薬は口に苦し」ではなく「良薬は口に甘し」だと一人で納得した。

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

ニホンミツバチの蜂蜜

はちみつ家メニュー

鈴木養蜂場 はちみつ家/通販・販売サイト

Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.