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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜の味

おかわかな

 

 私には今、交際している男性がいる。 年下の彼はとても仕事熱心で、休みは月に1、2度あるかないかというほど。 疲れているにもかかわらず、そのたまの休みに一緒に出かけようと誘ってくれる。 近くのちょっとした場所に行っても、興味あるものが同じだとか食べ物の好みが似ている等の発見があったり、率先して人助けするような優しい人柄も改めて気付かされる。 そして楽しい時間を共有できる事になによりも幸せを感じている。 
 一昨年の早春、海を臨む梅林に出かけた時のこと。 梅見の途中、簡易な建物で蜂蜜を販売しているのを見つけた彼がそこに近づいて行ったので、私も後をついた。 にこやかに迎えてくれた店の老夫婦は、私達に「地元の花の蜜です」と説明しながら、二種類あった蜂蜜を試食させてくれた。 小さな木べらを舐めながら彼は、「おかんが毎朝トーストに蜂蜜を塗って食べるから---」と、彼も私も美味しいと思った方を買うと言い出した。 
 彼の生い立ちは多少聞いた事はあったが、子供の時から幸せな家庭生活とは無縁だったようだ。 話の断片から母親の育児放棄を読み取った私は深くは追求しなかったが、そのひどいと思っていた母親にお土産を買うというので驚いたのだった。 
 きれいな淡黄色の蜂蜜の瓶を2つ持ち、「別々に包んで下さい」と言いながら会計を済ます彼。 そしてその1つを「はい」と私にくれた、「おかあちゃんに持って帰り」そう言いながら。 
 理想的とは程遠い自分の母親と、まだ会ったことのない私の母親にプレゼントを買う彼の優しさに胸が熱くなった私だった。 その夜、母親に蜂蜜を渡した後に、私が先に瓶の蓋を開けてスプーンですくって口に運んだ。きれいな梅と景色、美味しかったランチ、走って車椅子の方を助けに行く彼---様々なその日あった出来事が蜂蜜の味わいと共に甦り、おもわず笑顔になった。 
 後日、彼に会った時に蜂蜜のお礼を伝えると、「俺のおかんも美味しい言うとったからまた買いに行こな」と言った。 
 その後、出かけた先で蜂蜜を見かけると、いつも私には何も言わず2つ購入し、1つは自身の母親に持ち帰り、もう1つは私の母親にと渡してくれる彼。 そしていつもそれを母親より先に味わう私。 蓋を開けてスプーンですくって舐めるとろけるような蜂蜜は、毎回一緒に過ごした楽しい時間の記憶と彼の優しさを思い出させる最高の味となっている。 幸せな気分に浸り、『これからも一緒に色々なところに行こうね』と願いながら瓶の蓋を閉じるのだった。

 

(完)

 

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