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ハチミツ食べたい

高野 由美

 

甘味といえば「砂糖」しかなかった。
平成や令和生まれの人には笑い話というよりおとぎ話に聞こえそうだが、とにかくその頃の子どもは「甘味→砂糖」であった。
ジュースなんて買ってもらえないから麦茶に砂糖を入れてご満悦だったし、トマトに振りかけたりもした。
ホットケーキには添付されたシロップを箸で挟んで絞り出し、袋に残った少量を兄弟で争って吸ったものだった。
世の中が少し豊かになったころ「ハチミツ」というものがあることを知った。
なかでも、ディズニーのくまのプーさんが蜜ツボからとろりとからめとって舐める様子はたまらなく美味しそうに見えた。
親にねだるが買ってくれることはなかった。
三兄弟でお願いを連発するが無駄うち。
ただでさえ子どもはしつこい。
それが三人だから母も閉口したのだろう。
「いいよ、そんなに欲しいなら買ってやる。だけどね、あんたたちハチミツがなんだか知ってるかい?あれはね、ハチを絞って作るんだからね。それでも食べたいかい?」
ハチを絞る?
母は真顔で返答を待っている。
弟は「ハッチが死んじゃう」と泣き出した。
つられて兄と私も怖くなりブンブンと頭をふって「いりません」と答えた。
当然、嘘である。
ハチミツは高価で、我が家はただ貧しかっただけだ。
「買えない」と言えず子供が絶対に欲しがらない理由を思いついたのだろう。

 後年弟が「俺、子供のころハチをしぼったのがハチミツだと思ってたよ。馬鹿だよなあ」
と言ってどきっとしたが母は「あんた、ホント馬鹿だね」と笑っていたがそれがわざとかどうか分からない。
子どもに好きな食べ物を買えなかったのはどれだけ切なかったであろう。

 今、色々な花の蜜やきれいな瓶に詰められたハチミツを手に取るとタイムマシンであの日の母に送ってあげたいと思う。
きっと「あんたたちでたくさんお食べ」と言うだろう。
きっと自分は一口も食べずに。
甘いハチミツのしょっぱい思い出である。

 

(完)

 

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