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蜂蜜エッセイ応募作品

3種のはちみつがくれたもの

桂木みか

 

「これ開けてみていい?」
夫のささやかな昇進を祝う品々の中にある、こげ茶色のこじんまりした箱を指さして息子が言った。
パッケージに「はちみつせット」とある。高級なお酒や大人向けのお菓子が並ぶなかでは期待感が高くなかったのだが、大学生の息子がそのように自分から言う珍しさと嬉しさからつい高くなった声で「いいよ」と返事をした。

開けてみてその特別感に心が踊った。箱の大きさから想像していたよりも更に一回り小さな、とても可愛らしいラベルが貼られた3つの瓶。それにはちみつ3種がそれぞれ入って美しく並んでいた。

はちみつに味の種類があるなんて私も息子もこの時初めて知った。なにせスーパーの安価な外国産のものしか我が家にはないのだ。
透明な薄黄色の『アカシヤ』、琥珀色で半透明の『はぜの木』、オレンジマーマレードのようなこっくりした色の『宮古島の花々』。どれもいかにもおいしそうだった。パンに塗ぬったら、ドリンクに入れたら、料理に使ったら…瞬時にイメージが頭に次々と浮かんだ。

箱よりさらに控えめな印象の、決して押し付けがましくない品種説明書を読んだ息子が『宮古島の花々が一番珍しそう!食べよう!』と言った。いつもぶっきらぼうな彼の明るい声を聞き、私も「うん、そうしよう!」と知らぬうちに声が弾んだ。
蓋を開けると予想に反してほぼ固形だ。「うちで使ってるはちみつみたい」と息子が言うが、色が違う。深いオレンジ色というのか、とても温かい色味が食欲をそそる。
息子との素早いアイコンタクトで、常備しているカッテージチーズと共にパンに塗って食べることがすぐ決まった。
一口目、その主張ある味に驚いて私たちはまた目を見合わせた。といっても嫌なものでは決してない。口の中で花の香りが華々しく広がるけれど他の食べ物の風味に添う。あくまでも上品な印象だ。はちみつがこんなに高級感のあるものとは。驚きだった。

そのあと、すっきりした爽やかな香りが印象的なので紅茶に入れてみて大正解だった『はぜの木』、一番馴染みのある甘さだけれど舌あたりが非常に柔らかでしつこくない『アカシア』…と次々試した。いや、2人でお腹いっぱいになるほどに食べた。『アカシア』はバニラアイスにかけて食べた。あまりにも美味だった。息子の「うまーい!」を久々に聞いた。
私は、満たされた気持ちを息子と久々に共有できたことで胸もいっぱいになった。日々親離れ著しいことを喜びつつも内心寂しかった。だからほんとうに嬉しかったのだ。

なにもかもが控えめな佇まいなのに、それでいて大きな存在感のある高級なはちみつが、私たちに幸福な時間をもたらしてくれた。
夫の日頃の頑張りがこの幸せに繋がったことを感謝しつつ、家族で大切に食べていこうと思う。
でもきっと、すぐ次を取り寄せることになるだろうけど。

 

(完)

 

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