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蜂蜜エッセイ応募作品

実は甘党だった

菱川町子

 

 子供の頃、田んぼに囲まれた私の家には広い土間があった。農機具や収穫した野菜などを置いておくために必要だったからだ。もう50年も前のことだからうっすらとしか記憶にないが、ある日土間に見慣れない一斗缶が置いてあった。母に聞くと「ハチミツ」が入っているという。蜂は嫌われ者。できることなら出くわしたくないし、見たらすぐさま逃げ出したい。しかし「ハチミツ]は見たことも味わったこともなかった。そーっと蓋を開けると一斗缶の中に、黄金色のとろーっとした液体が見えた。 
 「ふーん」
 私と蜂蜜との出会いはチラッと見ただけというそっけないものだった。味を知っていたら、飛び上がって喜んだだろう。この蜂蜜は父のものだと聞いて、酒の好きな大人が好むものと思い興味がわかなかった。父は酒好きで毎晩晩酌をした。祭りの日に、ぐでんぐでんに酔っぱらった父を見て、厳格な父が得体の知れない魔物に取り付かれたような気がして恐ろしかった。だから父が酒に蜂蜜を入れて飲んでいるのを見ても、あれは大人を狂わす飲み物という印象がぬぐえなかった。
 昭和のちゃぶ台返しタイプの父に、甘えた記憶はない。うっかりランドセルを上がり框に置きっぱなしにして遊びにいこうものなら、ランドセルは空を飛んだ。泣きながら散乱した教科書や文房具を何度拾い集めた事だろう。
 大人になって初めて蜂蜜を味わって、父はこんなに甘くておいしいものを独り占めしていたことを知った。しかも一斗缶全部……。
 厳格だった父は実は甘党だったのだ。
 お正月になると、父の定番はお餅に砂糖ををまぶして食べる事だった。お餅がなくなるまでこの砂糖まぶし餅は続いた。おいしそうに食べる姿を今でも思い浮かべることができる。
 父が一斗缶の蜂蜜を一人で食べきったのは、健康のためだったろうか。男として甘党である事を知られるのが恥ずかしかったのだろうか。子供にあたえたら自分の分が減るのが嫌だったとしたら、なんと子供っぽい欲張り親父だろうか。今となってはどうして子供の私達にくれなかったのか分からないが、蜂蜜は父の意外な素顔をかいま見せてくれた。

 

(完)

 

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