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蜂蜜エッセイ応募作品

とろり、くるくる

石幾田隹

 

 初めて『崖の上のポニョ』を観た時、登場するホットミルクにものすごく憧れた。はちみつを入れていたからだ。
 ジブリ作品は食事がなんとも美味しそうに見えるもので、もちろんインスタントラーメンやサンドイッチにもすごく惹かれた。私が『崖の上のポニョ』の中で一番に憧れたのはホットミルクだ。凝った料理ではなく、素朴なそれだったのは、飲んだことがなかったからだ。インスタントラーメンやサンドイッチは食べたことがあるけれど、はちみつ入りのホットミルクは飲んだことがない。当時の私の家では、はちみつを使うことがなかった。だから家には、はちみつがない。
 リサという女性が、スプーンいっぱいにはちみつを掬う。とろりとしたそれは、つやつやと琥珀色に輝きながら、ホットミルクに入れられ、くるくるとかき混ぜられる。そしてポニョは、至福そうな顔でそれを飲み干す。
 ここに出てくるはちみつの描写が、得も言われぬ魅力を持っていた。当時の私は、はちみつを単体で味わったことがなかった。それと、私は牛乳が少々苦手である。だから、「あのとろりとして、つやつやしているものは、そんなに牛乳を美味しくしてくれるのだろうか」と興味津々だった。
 飲んでみたいな。試してみたいな。
 そう思いながら、ホットミルクのシーンを脳内で何度も再生した。
 ある時、はちみつを買ってもらった。バレンタインのお菓子作りに使うからという理由だった。でも、お菓子だけで全部使い切るわけではない。
 私は早速、小さな夢を叶えるためにマグカップに牛乳を注いだ。母は、私が自ら牛乳を飲もうとしているのを見て、わずかに驚いた顔をしていた。
 映画では、瓶から掬っていたけれど、私が買ってもらったのはボトルタイプだった。スプーンの上にいっぱい垂らそうと、ボトルを逆さまにしたけれど、すぐには落ちてこなかった。もしかして蓋が閉まっているのだろうか、と覗き込んで、ゆっくりと下降する琥珀色の動きを見た。
 スプーンから零れないギリギリの量。牛乳には、とろり、と少し落としてから、スプーンごと突っ込んでくるくると回した。
 小さな夢を飲むと、ほっとするような温かさがお腹から体に広がった。

 

(完)

 

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