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蜂蜜エッセイ応募作品

おばあちゃんのココア

たみ

 

 引っ越して2度目の冬が来た。いつか買おうね、と夫と話していた暖房器具をついぞ買うことなく冬を迎えてしまった。夫婦そろって手間がかかることは後回しにしてしまう。夏休みの宿題は最終日までやらないタイプだ。
 寒い部屋で震えていると夫がココアを作ってくれた。一口飲むと、おばあちゃんのココアの味がした。
 祖母は生活の手間を惜しまない人だった。漬物や味噌を手作りするような人だ。当然孫のわたしのおやつも手作り。さつまいもの蒸しパンや甘納豆と一緒に、ココアがいつも出てきた。
 祖母のココアはとにかくおいしい。作り方を何度か聞いたが、祖母は「あててごらん」というだけで教えてくれなかった。自分で作ったこともあるが、何かが違う。一味足りないのに何が足りないかは分からないのだ。
 そんな祖母が亡くなった。ココアの秘密とともに旅立ってしまった。葬儀の間に涙は出なかったが、数日してココアを飲んだ時、「もう二度とあのココアは飲めないのだ」とふと考えたとき涙がこぼれた。
 そんなココアを、夫は作ってしまった。夫は「最近運動不足だからね。純ココアをお湯で伸ばして、砂糖の代わりに蜂蜜とシナモンをいれた。健康にいいんだよ。」と言っていた。言われた通り、自分で作ってみるとこれが難しい。ココアはダマになってしまうし、分量を間違えるとたちまちおいしくなくなる。丁寧に丁寧に作らなければいけないのだ。おばあちゃんのココアは、健康に気を使い、孫に惜しみなく手間をかけた愛の味だったのだと思い知った。
 思えば、祖母は料理の甘味に蜂蜜を用いる人だった。いつもニッキの風味のする蜂蜜飴を持ち歩いていた。祖母との生活の中にココアのヒントは隠されていたのに、どうして気づかなかったのだろう。
 手間暇を惜しまない祖母を思い出したのは虫の知らせかもしれない。おばあちゃん、わたしにたくさんの手間暇をかけてくれてありがとう。わたしも手間を惜しまず暖房を買いに行くよ。

 

(完)

 

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