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蜂蜜エッセイ応募作品

唇の思い出

溝延久蓬

 

 六十年ぐらい前、私が五歳ぐらいの頃。
母はとてもきれいで、何処へ行っても、着物がよく似合う、とか髪形が素敵だとか、いろんな人にほめられていた。
 私は、そんな母が自慢だったし、今は母に似ていなくても、きっと大きくなったら母のようにきれいになると思っていた。
 そんな母が、小さくて可愛いビンから何か取り出して唇につけているのを見た。母の唇は、ふっくらしてとても可愛いかった「それ、なあに?」私も早速、唇につけてくれるようにお願いした。唇が荒れるからつけているようで、子供には必要ないというように言われた。
 それでも私は母の真似がしたく、無理を言って、母につけてもらった。口紅をぬってもらっているようなわくわくした気分だった。なめてみると、びっくりするほどやさしく甘い味がして、苦い薬と思っていたのと大違いだった。  それが私の蜂蜜との初めての出会いだった。昔だったし、田舎でもあったので、だれも蜂蜜のことは、知らなかった。   私は、それからも母に、唇にぬってもらって、不思議な秘密のような楽しい日々をすごした。
 でも私は長くそれが薬だと思っていて、パンにぬったり、お湯に溶かして飲んだりする蜂蜜だとは思っていなかった。甘くて素敵な薬もあるんだと思っていた。

 今でも、蜂蜜を口にふくむたびに、やさしかった母を思い出す。ほっそりとして清楚だったけれど、厳しくて強い面もあった母。
残念ながら、私は、今まで母に似ていると言われたことは 一度もない。
私は陽気で、大声で笑ったり、怒ったり、泣いたり、絶えず忙しく動き回って、生きてきたように思う。それでも、時々母がいたら、と思う時がある。全く似ていない自分だけれど、母の着物は何十年もたっているのに、今も私が着ている。淋しくなったら鏡を見て、母がぬってくれた唇を確かめる

しょうが蜂蜜が好きな私だけれど、時々あのお薬のような甘い蜂蜜の味を思い出す。
鏡の中で二人で笑った日々。
ずっとずっと昔の思い出。私の子供時代

 

(完)

 

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