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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

愛情の隠し味

栄直美

 

 女で一つで私を育てていた母は、毎日超多忙な日々を送っていた。絵本を読んでもらったり、一緒に買い物に行った記憶は無い。専業主婦の母親を持つ友人達が羨ましかった。けれど、年に二回楽しみにしていた事がある。
 春と秋のお彼岸、母は必ずおはぎを作った。お彼岸が近づくと台所に七輪が登場する。七輪の上に大鍋を乗せ、小豆をコトコトゆっくりと煮る。一般的に茹でた小豆に砂糖を入れる事を私は成人するまで知らなかった。母は砂糖の代わりにはちみつを使っていたから。                           
 子供の頃の私は偏食が酷く食も細かった。体力も無くよく熱を出した。そんな私が唯一お代わりをするほど大好きだったのが母の手作りおはぎだった。私の健康を考慮し母が使ってくれていたはちみつ。高価なはちみつを惜しげも無く大鍋に投入する母の姿が甦る。蒸し上がった餅米を、擂り粉木で粗く潰すのが私の仕事。まだ熱々の餅米を母が丸める。労働者の母の手は大きくてゴツゴツしていて頼もしい。餅米の湯気を挟んでお互いの笑顔が見える。大好きな母を一人占めできる貴重な時間。「永遠に続け」と、何度も願った。
 おはぎは季節ごとに名前を変える。春はぼた餅、夏は夜船、秋はおはぎ、冬は北窓。色々な顔を持っていた母に似ている。はちみつ入りおはぎのお陰か、成人する頃には私は風邪ひとつひかない健康体になっていた。
 母が亡くなり、おはぎを作る機会も無くなってしまった。今度のお彼岸は頑張っておはぎを作ろう。私は惜し気無く大量にはちみつを使えるだろうか?餅米を潰すのは息子達に任せよう。
 「婆ちゃんのおはぎ、一個が超大きかったナァ」
 息子達と母の思い出話に花が咲く予感がする。

 

(完)

 

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