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蜂蜜エッセイ応募作品

ニトログリセリンとプロポリス

つねかわりえ

 

 ニトログリセリンに続いて、プロポリスとローヤルゼリー。この3つの言葉が私の辞書に追加されたのは、二十年くらい前のこと。
 私が高校生だった頃、働き蜂の母が倒れた。学校から帰宅すると母の枕もとに医師がいた。狭心症を患っているということは聞かされていたけど、私と弟は「強い心の強心症?」と言って怒りっぽい母をからかっていたので驚いた。
 両親は共働きだった。両親、父方の祖母、弟と私の五人暮らしだった。若くして夫に先立たれた経験が祖母をそうさせてしまったのか、当時の祖母はとても気が強かった。そして父は血の気が多かった。私ならば絶対に嫁に行きたくない家庭である。
 私も今は家庭を持ち、同じく共働きだ。ただし、幸運なことに夫ははやりのイクメンであるし、姑と同居もしていなければ嫁姑問題にも悩まされていない。そして、夫はおおらかな性格の持ち主である。私は当時の母親に比べたら相当恵まれている。それでも、母の遺伝だろうか働き蜂へと成長した私は、過労から体調を崩すことがある。だから、生活環境が母親を病に導いたのは不思議ではない。
 狭心症を患っていた母は、ニトログリセリンという薬を飲んでいた。そして、結局手術をすることはなかった。両親は二人で北海道旅行をするなど、母の心身の療養に努めていた。そして、ニトログリセリンに代わり、母親はプロポリスとローヤルゼリーを飲むようになった。それがいつしか、家族全員で飲むようになり、キッチンの珈琲缶や茶筒に並んでプロポリスとローヤルゼリーが並べられるようになった。
 「働きすぎだ」と言って、我が家へせっせとプロポリスとローヤルゼリーを届けてくれるのは、六五歳になった母親だ。先日、母親の昔の病気のことを夫に話したら目を丸めて驚いていた。母親が元気すぎて一緒に歩いていると私が先に疲れてしまうのだ。「お母さんがこんなに元気なのはプロポリスを飲んでいるから」とは、母の口ぐせの1つである。

 

(完)

 

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