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蜂蜜エッセイ応募作品

おじさんの最後のハチミツ

井上 文子

 

 「おじさん」と息子が出会ったのは、今から5年前だ。湯治のため家族で訪れた岐阜のローソク温泉は、世界一豊富なラジウム温泉で知られた場所だ。また、人間と蜂との関わりの歴史も深く、むやみに蜂を殺したりせず、蜂の子を食す文化もあれば、蜂の巣は子孫繁栄や商売繁盛の象徴として大切に扱われ、宿のラウンジにもおじさん自慢の大きな蜂の巣が大切に飾られていた。
 自然豊かなこの宿の宿泊を、息子は誰よりも楽しみにしていた。ある夏の終わり、宿を訪れた際、広大な宿主の敷地を散歩中に、私たちは宿主の自宅前でばったり宿主のおじさんと鉢合わせになった。おじさんはこの偶然を喜んで、息子を手招きし、自宅の庭園を案内してくれた。
 庭にはおじさんが趣味で育てている鯉の池がいくつもあり、また独学で始めたというミツバチの養蜂も見せてくれた。なぜか蜂が好きでテレビの特集など欠かさない息子は大興奮だった。おじさんはテレビでみかけるような防具など何も身に着けず、ミツバチの巣を狙ってやってきたアシナガ蜂をハエたたきで退治する姿に、息子は心底驚愕し、また尊敬したようだった。
 それが東京に戻ってからわずか一か月後、突然おじさんの訃報が届いた。息子とお悔やみのお便りを出すと、おばさんから息子宛に、手紙とおじさんが愛してやまなかったミツバチから採取したという大きな瓶に詰められた綺麗な琥珀色のハチミツが届いた。
 手紙には、おじさんが息子を庭に案内し、自慢の養蜂など見せれたことを大変喜んでいたこと。養蜂を目にしたお客様は息子しかいなかったこと。おじさんの養蜂を見学した最初で最後の小さなお客様に、おじさんの最後のハチミツを送るので、おじさんのことを思って食べてやってほしい、と書いてあった。
 私と息子は、そのハチミツを早速舐めてみた。これまで食べたどんなハチミツよりもおいしかった。
 「お母さん、大事に食べようね」
 と涙ぐみながら呟いた息子に、
 「そうだね。貴重なはちみちをくれたおばさんに感謝しながら、天国のおじさんに美味しいです、と言いながら頂こうね」
 と涙を拭いて答えた。

 

(完)

 

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