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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

イリスとはちみつ

戸川 桜良

 

 九歳の夏休み、フランスへ行った私は、父の知人 ・パスカルさんの家を訪れました。
 パスカルさんには、イリスという私と同い年くらいの娘がいました。私は仲良くなりたかったのに、初めて見る外国の少女に、どう接したらよいか分からず、彼女を見かける度に、ついつい逃げ出してしまっていました。
 さて、パスカルさんの家の庭の片隅には、緑色のかわいらしい箱があり、パスカルさんはそこで、ミツバチを育てていました。
 ある日、パスカルさんが、はちみつを取る様子を見せてくれることになりました。
 全身を防護服で覆ったパスカルさんは、煙でハチを巣から追い払い、びっしりと蜜蓋で覆われた木枠を取り出して、キッチンに運びます。そこで大きなナイフを使い、蜜蓋を切り落とすのですが、これが力のいる作業らしく、もともと赤い顔のパスカルさんが、さらに顔を真っ赤にしてナイフを握っていました。
 そうして蜜蓋を取り除いた木枠を、銀色のタンクに入れ、パスカルさんはハンドルを回し始めました。遠心力で、木枠から蜜を振るい落とすというのです。
 パスカルさんがあんまり早くハンドルを回すので、タンクは激しく揺れます。見ていた私とイリスは思わず、タンクが倒れないように押えました。初めは重そうだったハンドルが、蜜がふるい落とされていくうちに、どんどん軽くなっていきます。揺れが収まり、私とイリスがタンクから手を放すと、注ぎ口から、はちみつが流れ出ているのが見えました。
 パスカルさんが頷いたので、私とイリスは、はちみつをなめました。取れたてのはちみつは、甘く、さらさらとしていて、とてもいい香りがしました。
 思わず私が「おいしい!」と言うと、イリスはにっこりと笑って、フランス語で何か言いました。言葉の意味は分かりませんでしたが、はちみつを介して、私たちの心はその瞬間、確かに、通い合ったのでした。

 

(完)

 

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