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蜂蜜エッセイ応募作品

優しい甘さ

雑司が谷タマミ

 

 「ホットケーキが食べたいな。ハチミツたっぷり掛けたやつね」
 当時付き合い始めたばかりの彼は、私の家に来て早 々に初めての手料理をねだってきた。
 「粉に牛乳と卵を混ぜて焼く、簡単なのしかできないよ」
 私がそう言うと、
 「なんでも良いよ。ただ、ハチミツは絶対かけてね」
 彼はなぜか誇らしげな顔を向けて来た。
 ご希望通りに、表面全てが覆われるほどたっぷりとハチミツを掛けて出してあげると、彼はテカテカに光ったホットケーキを、目を細めながら味わった。
 「生クリームとかフルーツはいらないんだよ。これだけで十分美味しいんだから」
 なるほどねぇ。と私が聞いていると、彼はニヤニヤしながら
 「ハチミツはあま~くて、俺らの空気感に似てるよね。英語だと彼女のことはハニーって言うし」
 本気で言ってるのか、冗談なのか分からない絶妙に甘い言葉を掛けて来た。軽薄な事言って……。と思いつつも、英語もろくに喋れない彼の「ハニー」の言い方が妙に可愛らしくて、私までニヤけてしまった。
 そんな日から三年、ハチミツだけをたっぷり掛けたシンプルなホットケーキは今や我が家にとって休日のおやつの定番であり、晴れて旦那さんになった彼は相変わらず目を細めながら食べている。
 恥ずかしくなるような甘い言葉はもう夫婦のおやつタイムには存在しないが、2人で静かに、そしてゆっくりとそれを味わう空間はハチミツのように甘く優しさに包まれているように感じる。

 

(完)

 

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