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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜の毒

箱池たかし

 

まだ二十代だった頃、仲のよい同僚数人で行った飲み会にて、一人がこんなことを言った。

「職場の一回り以上年上の先輩に、ちょっといい蜂蜜を急にもらったの。」
ちょっといい、とは値が張る、高級なという意味であろう。

気の置けない、同性の集まりで、店は大衆居酒屋だった記憶である。飲みたいもの、食べたいものをつまみながら気取らずに自分たちの身の回りに起こったことを話していた。

「今までもお菓子とかもらうことはあったんだけど、今回はちょっと戸惑った。」彼女は続ける。「近所の子どもにお菓子配る感覚なのかなって思ってたけど、そうじゃなかったみたい。」

なんとも思ってない相手にお菓子を何回も渡したりはしないでしょ、この年齢で近所の子ども感覚はおかしい、その蜂蜜どうするの、それは下心がみえすぎていて嫌だわなどと皆口々に言いたいことを言い始め、その飲み会の温度は一気に上昇した。

蜂蜜を渡した彼に対する噂話から悪口まで大いに花が咲いた。私も一緒になってよく知りもしない先輩の噂話に便乗し、彼に変なあだ名を付けるところまで話は盛り上がったのである。

そして、年月がたった今でも話のネタとして重宝している始末である。職場、という限られた人間関係の中で噂話になるようなことをするとどのようなことが起こるのかという例であるとともに、蜂蜜という単語を聞くと思い出すエピソードでもある。

蜂蜜は口に含めば甘く、優しさを感じることもあるし、喉がひりつくような強さを感じることもある。そして私は甘さの中にほんの少しのほろ苦さも感じてしまい、そのほろ苦さのうしろには何らかの後ろめたさが隠されている気がしてならない。その後ろめたさというのは、たいして関わりもない職場の先輩を話のネタにしてしまっている罪悪感なのか、一方的に自分の思いを一回り年下の異性の後輩に押しつけている彼の行為に対して抱いている嫌悪感や共感性羞恥心に近いものなのか。それとも何食わぬ顔でお菓子をもらい続けていた彼女に感じたちょっとしたひっかかりなのか。

それは突き詰めていくと下心と魔性のイメージが潜んでいる。私にとって蜂蜜は、甘く優しく健全なイメージを持ちつつも、そんな毒を持ち合わせている食品なのである。

(完)

 

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