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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜が運ぶ、親の時間

宜保友理子

 

玄関先に置かれた小さな段ボール箱を見つけると、私は一瞬立ち止まる。差出人の名前を確認しなくても分かる。離れて暮らす、年老いた両親からの荷物だ。中身は、いつも蜂蜜。変わらないことが、こんなにも心を揺らす。

育児と仕事に追われる日々は、気づかぬうちに心身をすり減らしていく。朝は子どもを送り出し、夜は眠りにつくまで気を張り続ける。自分のことは、いつの間にか後回しになっていた。そんな私の様子を、両親は遠くから感じ取っているのだろう。電話口で交わす短い会話の中に、心配と遠慮がにじむ。

蜂蜜の瓶は、決して軽くない。買いに行くにも、包むにも、送るにも、体力が要る。それでも両親は、「体にいいから」「すぐ食べられるから」と言って、黙って送り続けてくれる。箱の中には、言葉にされなかった無数の「大丈夫?」が詰まっている。

瓶の蓋を開けると、ふわりと立ち上る甘い香りに、時間が巻き戻る。風邪をひいて布団に横たわる私に、母が差し出してくれた蜂蜜湯。父が「これなら喉も楽だ」と言って、そっと見守ってくれた夜。蜂蜜の味は、私にとって親に守られていた時間そのものだ。

忙しい朝、トーストに垂らした蜂蜜を子どもと分け合う。夜、疲れ切った体に、お湯で溶かした一杯を流し込む。その甘さは、栄養以上に、心を支えてくれる。「無理しなくていい」「ちゃんと休みなさい」――そう言われている気がして、胸が詰まる。

ミツバチが花から花へと飛び、少しずつ集めた蜜が、長い時間を経て瓶になる。その重なりは、親が子に注いできた年月と重なる。両親の背中が、少しずつ小さくなっていく今、蜂蜜は「今も想っている」という確かな証だ。

空になった瓶を洗いながら、私は次の小包を思う。蜂蜜は甘い。でも、その甘さの奥には、親の時間と、静かな愛が溶け込んでいる。離れて暮らしていても、確かに届く。そのことを、私は今日も蜂蜜で知る。

(完)

 

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