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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

百花蜜の記憶

オサム

 

食べ物の世界には、一見遠縁なのに奇跡のようなマリアージュを見せる組み合わせがある。

サツマイモとオレンジ。

メロンと生ハム。

チーズと蜂蜜。

どれも、人生のどこかで偶然出会って、なんだか惹かれ合って、そのまま一緒に旅を続けることになった二人組みたいなものだ。

そんなことを考えていると、決まって思い出す夜がある。僕がまだ独身で、世界がもう少しだけ軽やかに見えていたころの話だ。

薪がちろちろ燃えるピザ窯を遠目に見ながら、ボクは彼女と隣り合って座っていた。

その日は、いつものマルゲリータじゃなくて、

「四種類のチーズに蜂蜜がけなんて、ちょっと変わってるね」と彼女が言い、僕たちはクワトロフォルマッジを頼んだ。

彼女は右手を怪我していて、左手でぎこちなくフォークを持っていた。

「青カビのゴルゴンゾーラは苦手なの」その部分だけ僕の小皿にそっと避けた。

僕はゴルゴンゾーラの、あの蒼い金属のような味を嫌いじゃなかったけれど、どこか身構えてしまうところがあった。

ところがその夜のゴルゴンゾーラは、妙にまろやかだった。

「思っていたのと違う」僕はつぶやき、彼女にも一口すすめた。

彼女は、毒物でも試すみたいに慎重に口へ運び、そして小さく笑った。

「蒼い刃が、金色の光に溶けちゃったみたい」

その比喩は、今でも僕のどこかに残っている。蜂蜜の甘さが、青カビの鋭さを包み込むとき、それは、たしかに“溶ける”という言葉が似合っていた。

店の人が言うには、かかっていた蜂蜜は百花蜜で、「いろんな花の香りが混ざって、複雑な味になるんですよ。四つのチーズの個性とお互いに響き合い、高め合うのです。特にゴルゴンゾーラとは相性がいい」とのことだった。

僕は「すごいマリアージュですね」と言い、彼女はうれしそうにうなずいた。

いま思えば、あの夜のテーブルには、チーズと蜂蜜だけじゃなく、僕たちのあいだにも、何かが溶け合う気配があったのかもしれない。

でも、人生というのは不思議なもので、そういう気配があったからといって、必ずしも続くわけじゃない。僕たちはほんの些細なことで別れてしまい、今では音信不通だ。

百花蜜の瓶を見かけると、あの夜のことを思い出す。溶け合うかどうか。その境界線の曖昧さが、今でも胸のどこかに静かに留まっている。

(完)

 

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