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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

HONEY

林題介

 

はちみつは好きでも嫌いでもなかった。いや、強いて言うなら嫌いだ。それは、味よりも面倒くささからだ。まずビンを開けるのがひと手間だ。そしてスプーンですくうと、どんどん垂れてくる。くるくるとスプーンを回転させて、垂れるはちみつの隙をついてパンの上に落とす。これにミスるとビンのふちについてしまうので、拭き取るのが大変だ。ティッシュで拭くと繊維が残ってなんか汚いし、水で洗い流すにもいかない。なので見て見ぬふりをしてそのままフタを閉める。次に使う人ごめんなさい、という気持ちになる。一旦そうなると、もう後ろめたくて使えない。そうやってどんどん疎遠になっていた。

日頃の不摂生がたたって、ひどく風邪を引いた。年末の残業続き。仕事がひと段落して、ホッと気を緩めた瞬間をウイルスが狙っていた。部屋にはとっくに消費期限の切れた調味料があるくらいで、ろくなものがなかった。さっき社用携帯がなった気がしたが、見ると余計具合を悪くしそうなので無視していた。

うつらうつらとしてきた時、インターホンが鳴った。会社の同僚だった。そう言えば同期で飲んだ時に一度送ってもらったっけ。

入ってきた彼女はビニール袋をぶら下げている。何か食べ物だったらいいなと淡い期待を抱きつつも、感染るからあんまり近づいちゃダメだよと告げて、またベッドに潜り込んだ。冷たい言い方だったかなと反省するも、何だか部屋に温かみが感じられて、すぐに眠ってしまった。

目を覚ますと簡単ながら胃に優しそうな食べ物を用意してくれていた。僕は、ガラガラの喉を労わりながら、ボサボサの髪のまま、それを平らげた。涙が出るほど美味しく感じられた。

その後、彼女はホットミルクを作ってくれて、そこに何か金色に光る美味しそうなものを垂らしていた。僕はまた眠たくなって、おぼろげにビンの文字を読んだ。

「ハニー……」

我ながら、甘く艶やかないい声が出たような気がする。

それはいまだに我が家の笑い話になっている。

妻はまた言ってよと茶化してくるが、照れ臭い。

僕ははちみつのビンをとり、ヨーグルトに垂らす。今では慣れたものでどこも汚す事はなかった。

(完)

 

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