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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

甘くて優しい便り

有本亜希

 

テーブルの端に置かれた小さな瓶が、窓からの西日を受けてキラキラと輝いている。送り主は、遠い国に住む友人のアントンだ。彼とは学生時代、旅行先でたまたま知り合った。それ以来、お互いの国のちょっとしたお菓子や小物を送り合うような、のんびりとした交流が十年以上続いていた。

しかし、ここ数年、私たちの便りは途絶えていた。彼の国を襲った過酷な現実が、チャットを送ることすら、ためらってしまうような距離を作ってしまった。

彼はウクライナ人。ニュースで流れる激しい爆発の映像を見るたびに、彼のことを思い出しながらも、結局何もできないまま時間が過ぎていた。

そんな折、久々に小さな小包が届いた。そこには見覚えのある、彼の筆跡が。「僕は通訳だから前線にはいかず、後ろの部隊で頑張っているよ!」 短い言葉だったけれど、私には想像もできないほど大変な時間を過ごしているはずだ。そして、手紙と一緒に同封されていたのが、この蜂蜜の瓶だった。

ウクライナは世界でも有数の蜂蜜の産地。国旗にも象徴される、抜けるような青い空と麦畑の大地。そこを、かつてはミツバチたちが元気に飛び交っていた。

私は瓶の蓋を開けて、スプーンで少しだけすくってみる。光にかざすと、混じりけのない綺麗な黄金色をしていた。この一滴を作るために、ミツバチたちはどれだけ一生懸命に働いたことだろう。爆弾が飛び交い、不条理な戦いが続く空の下でも、彼女たちは変わらず花を見つけ、蜜を集め続けていたのだろうか。その姿を想像すると、なんだか鼻の奥がツンとした。

口に含んでみると、花の香りと濃厚な甘さがゆっくりと広がる。いま、アントンや彼の国が向き合う現実は、決して甘いものではない。命の保証もなく、寒さや恐怖と隣り合わせ。だけど、この蜂蜜の味だけは、彼と学生の頃、一緒に食べたころと何も変わらず、甘くて優しい。

どれほど世界が変わってしまっても、ずっと私をホッとさせてくれる優しさの味。ミツバチは、数千キロの距離を飛び越えて、友人が生きている証と優しさを届けてくれた。私も彼への返事を選びに、街へ出なくては。小さな瓶に詰めて届けてくれた彼の思いを、今度は私が返す番だ。

(完)

 

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