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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

ポリネーター

池田パウロ

 

台所の棚から一瓶を取り出し、蓋を開けると濃厚で野性味のある香りが広がった。数日前から喉の違和感を訴え、元気がなかった4歳の娘のためだ。小さなスプーンですくい上げた黄金色の雫を、彼女の口元へ運ぶ。ゆっくりと飲み込み、「あまくておいしいね」と少しだけ微笑んだ娘の顔を見て、ようやく私の胸のつかえが降りたような気がした。

蜂蜜は、単なる甘味料ではない。それはミツバチという小さな生命が紡ぎ出した「献身の結晶」だ。一匹のミツバチが一生をかけて集める蜂蜜の量は、わずかティースプーン一杯分にも満たないという。まだ見ぬ次世代の幼虫たちのために、そして厳しい冬を越える仲間たちのために、気の遠くなるような回数の飛行を繰り返す。自分の命が尽きた後も、巣の中に残された命が繋がっていくように。そのひたむきな姿は、どこか子を想う親の心に似ている。

また、ミツバチには「ポリネーター(花粉媒介者)」としての重要な役割がある。娘は花が好きで、散歩道で見つけた名もなき花に声をかける。そんな彼女が愛でる花々も、実はミツバチが飛び回ることで、次の命である「種」や「実」を結ぶことができるのだ。

ミツバチが花を訪れるのは自分のためだけれど、その足についた花粉が、結果として世界を花と緑で満たしていく。親である私たちの営みも、それに近いのかもしれない。

朝ごはんを作り、汚れた服を洗い、喉を痛めた娘に蜂蜜を運ぶ。一つひとつは当たり前の日常だが、その小さな積み重ねが、娘という一輪の花が明日も元気に咲き続けるための栄養になる。私たちが注ぐ日々のケアは、ミツバチが運ぶ花粉のように、彼女の未来にたくさんの「実り」を準備しているのだ。

はちみつの力だろうか、翌朝、娘はいつもの元気な声で私を呼んだ。喉の痛みは消えたようで、楽しそうに笑っている。

ミツバチが花の命を繋ぎ、その蜂蜜が娘の身体を癒やしたように、この世界は目に見えない「愛の循環」で満たされている。一滴の蜂蜜に込められた献身と、親が子に抱く慈しみ。それらは形を変えながら、確かに次の世代へと手渡されていく。

窓の外では、春を待つ蕾が静かに風に揺れている。やがてやってくるミツバチの羽音を想像しながら、私はこれからも、娘の健やかな成長を支える一番身近なポリネーターであり続けたい。

(完)

 

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