林美月
蜂蜜の種類について、私はほとんど知らなかった。ヨーグルトやトーストにかける、甘い液体。それ以上の認識はなかった。産地や花の違いはよくわからず、「甘ければ蜂蜜」という雑な理解で生きてきた。
私はお笑いが好きで、よく動画やラジオを漁っている。ネタだけでなく、切り抜き動画やコメント欄を読むのも習慣だ。知らない芸人のエピソードや、視聴者の少しふざけた感想に、思いがけず笑わされることもある。
ある日、いつものようにサイトを巡回していると、ある芸人が「喉のためにマヌカハニーを食べている」という話をしているのを見つけた。最初に引っかかったのは「マヌカ」という聞き慣れない言葉だった。後ろに「ハニー」とついているので蜂蜜の一種なのだろうと想像はついたが、喉のケアといえばのど飴、という固定観念を持っていた私には新鮮だった。
さらに調べているうちに、ラッパーもマヌカハニーを愛用している、という情報まで出てきた。ライブやレコーディングで酷使される喉を守るためらしい。芸人とラッパー。ジャンルは違うのに、声を武器にする人たちが同じものを口にしていると思うと、急にその蜂蜜が特別なものに見えてきた。
気になった私は、近所のスーパーに向かったが、棚には見当たらなかった。駅前の、少し値段が高めのスーパーまで足を延ばすと、ようやくそれはあった。ガラス瓶に入った小さな蜂蜜は、他の商品よりも明らかに高級そうな顔をしている。
値段を見て驚いた。蜂蜜にしては明らかに高い。ラジオで芸人が話していた「MGO」という表記の意味も、頭では理解していたが、いざ商品を手に取ると「本当にこれは意味があるのか」「効果はあるのか」と疑う気持ちも湧いてくる。それでも、芸人とラッパーに影響された私は、そのままレジに持っていった。
自宅に戻り、水切りヨーグルトを用意し、スプーンですくってかけてみる。
今まで食べてきた蜂蜜とは、まったく違う味がした。
ただ甘いだけではなく、少し薬草のような、土の匂いを思わせる風味。値段にも味にも驚かされたが、不思議と嫌ではなかった。むしろ「体に良さそう」という、曖昧で頼りない感覚が口の中に残った。
それ以来、私は毎朝、お笑いの映像を流しながらマヌカハニーを舌の上にのせている。画面の向こうで言葉を操り、リズムを刻み、声で生きている彼ら彼女らも、同じ味を喉に通しているのだろうか。そう思うと、蜂蜜ひとさじで、芸人やラッパーと細い線がつながったような気がする。
甘いだけだった蜂蜜は、いつのまにか、声の世界へ通じる入口になっていた。
(完)
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