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蜂蜜エッセイ応募作品

はちみつサーヤちゃん

ひうらともこ

 

夫が喉の手術の当日です。(夫は「副甲状腺機能亢進症」という病気でした)

「どんな手術なんですか?」

「首に穴をあけるようだ」と夫は言います。家族は驚きました。

入院の際に「何かあったら子供たちを頼む。あまり甘やかさないように」と。

「では頑張って手術受けてください」とだけ言って、私はその場を去りました。

夫が病室に入る姿を静かに見送り無事を祈りました。夫が78歳、私が74歳の昨年の秋でした。外に出ると銀杏並木の黄葉が青空に映えて見事でした。

翌日、夫は多くの管に繋がれてベッドに横たわっていました。傷口は首ではなくって鎖骨の少し上あたりでした。筆談かと思ったら、声を出すことが可能で一安心。

一週間後、退院の日、家に着くなり「やっぱり家はいいなあ」とポツリ言いました。私ははちみつに細かく切った花梨を詰めた瓶を開け、スプーンに琥珀色の液をたっぷりカップに入れてお湯を注ぎました。カップは夫のお気に入りのウェッジウッド、猫舌の夫はふうふう口をすぼめて少し冷ましてから、口をつけました。

「あ~うまい、最高だなあ。ミツバチは花の蜜をはちみつに造りかえることが出来るなんてすごいよね、栄養もたっぷりで身体にも良いし」と満面の笑みです。

このはちみつ花梨はご近所に住む幸代さんがくれた逸品です。

私は彼女を、はちみつサーヤちゃんと呼んでいます。

静岡県浜松市に住む90歳近い彼女のお父さんが、重い巣箱を叔父さんに手つだってもらって移動、スズメバチにやられて全滅することもあるようで、大変なご苦労の上に出来上がるはちみつは、香り、色、甘さ、旨さ、共に最高で私が恩恵に与って良いのかしらと思うこともしばしばです。テレビ番組などで、アカシアやトチなど上等な花を求めて巣箱を移動しながら養蜂している人々の姿を観ると、本当にそのご苦労が素人の私でも充分に理解できます。

サーヤちゃんのお姉さんは若くして天国にいらっしゃるそうです。

サーヤちゃんにお姉さんの分まで幸せになってほしいと願い天国のご長女を慈しみ偲ばれるご両親の尊いお姿を思い浮かべ、親の気持ちをしみじみ感じながら、素敵なはちみつをいただいています。還暦を迎えたお歳なのに、少女のように初々しく3人の男の子を立派に育て上げた明るく優しいサーヤちゃんは、私にとっていつまでもお友達でいてほしい人です。

(完)

 

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