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蜂蜜エッセイ応募作品

ハチミツが教えてくれた、立ち直り方

二宗 洋輔

 

大学二年生の頃、コロナ禍で一日中家の中にいる生活が続き、心が折れかけていた。英語の資格取得も、ビザ申請もすべて終え、あとは出発を待つだけだったニュージーランド留学が、断念されたからだ。努力してきた時間や、思い描いていた未来の景色が、一気に遠ざかってしまったように感じた。 当時の私は、自分の心をどう扱えばいいのか分からず、ただ一人で散歩をして気を紛らわすくらいしかできなかった。前向きな言葉も、励ましも、なぜか胸に入ってこない。ただ時間が過ぎるのを待つような日々だった。 そんな中で、唯一の息抜きが週に一度の喫茶店でのアルバイトだった。客もコロナ感染を恐れ、夕方五時から十一時まで店を開けても、訪れる客は十五人にも満たない。静かな店内に流れるのは、コーヒーの香りと、控えめなジャズだけだった。 バイト先のマスターは、私の留学を誰よりも応援してくれていた人だった。学生時代にニュージーランドへ留学していたマスターに憧れ、その話を聞くうちに、私自身も同じ地を留学先に選んだ。だからこそ、留学中止の知らせは、マスターにとっても残念な出来事だったのだと思う。 そんな私を慮ってか、閉店後によくコーヒーを淹れてくれた。苦みとコクのバランスがよく、なぜか少し甘く感じる一杯だった。砂糖を入れている様子はない。その甘さが気になり、ある日理由を尋ねてみた。 「ハチミツを入れてるんだ。俺も、もうだめかもしれないって思うときは、いつもこれを飲むんだ」 その言葉を聞いたとき、ハチミツの甘さは、無理に元気を出させるものではないのだと気づいた。苦さを消すのではなく、そのあとに静かに寄り添う甘さ。主張しすぎず、それでも確かに残る味わいが、当時の私の心にすっと重なった。 今でも、疲れた夜にコーヒーを淹れ、ハチミツをスプーン一杯だけ垂らす。すると、不思議とあのバイト先の静けさと、何も言わずに見守ってくれていたマスターの背中を思い出す。 それから一年後、私はニュージーランドの地を踏みしめていた。留学という形ではなかったが、長く思い続けていた場所を訪れることができた。帰国後、旅のお土産としてタバコとマヌカハニーをマスターに渡すと、「わざわざ気を使うなよ」と言いながらも、とても嬉しそうに微笑んでいた。 ハチミツの魅力は、甘さそのものよりも、立ち直る時間に静かに寄り添ってくれるところにあるのだと思う。

(完)

 

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