yura
「お母さん!ハチミツかけてもいい?」
「いいわよ。」
「あまーい!」
私は、ハチミツ。
ヨーグルトにハチミツ。
食パンにハチミツ。
料理の隠し味にも、ハチミツ。
私は、ただ甘いだけじゃない。
花びらに包まれて、私は眠っていた。
ほの暗い花の奥で、沈むように眠っていた。
柔らかくて甘い香りのお布団は、
私の最高の秘密基地。
誰も知らない静かな部屋で、
私だけの至福の時を過ごしていた。
ブーン、ブーン。
「最近、物音が聞こえるな。
うわぁっ!」
突然、部屋が大きく揺れ、
私の部屋に初めての光が差し込んだ。
光の先を見つめると、
花びらの間から、
大きな瞳が私を見つめていた。
「こんにちは。」
「こんにちは。あなたは誰?」
「僕の名前はハチだよ。君を運びにきたんだ。」
その黒い瞳は、
優しさと暖かさを纏っていた。
「私を外の世界へ連れて行ってくれるの?」
「そうさ。まだ見たことがないだろ。
外は広くて、綺麗で、素晴らしいんだ。」
そう言うとハチは、
暖かい身体の中へと、
そっと私を吸い上げて、
外の世界へとブーンと羽ばたいた。
ハチとの旅は、とても快適だった。
羽音に包まれ、緊張がほどけていった。
「あの腕が鋭いのは何?」
「あれはカマキリだよ。あの腕で俺たちを捕まえるんだ。」
「あの足がたくさん生えているのは何?」
「あれはクモだよ。あの足で俺たちを捕まえる罠を作るんだ。」
外の世界には、
少し怖くて、
ワクワクする出会いがあった。
揺れに身を任せているうちに、
ハチとよく似た姿の生き物が、
ブーンとこちらに向かって飛んできた。
「おー!ナナじゃん!」
私は、別の蜂さんへと受け渡された。
それは、
ほんの始まりにすぎなかった。
何度も、何度も。
暖かい身体に包まれながら、
私は旅を続けた。
そのたびに、
私は少しずつ琥珀色へと、
濃く深い甘さを纏っていった。
「もう、そろそろ十分かな。」
そんな声の主に、
私は静かで小さな部屋に入れられ、
眠るように、蓋をされた。
微かな羽音が心地よく響き、
暖かな風が何度も頭上を通り過ぎた。
私は守られるように、眠っていた。
何もせず、ただゆっくりと自分と向き合う時間。
この時初めて、私はハチミツになるのだと知った。
長い眠りのあと、私は小瓶の中で目を覚ました。
誰かの手に取られ、食卓へと運ばれていく。
「いただきます!」
私は、ただ甘いだけじゃない。
蜂さんたちが運んでくれた、特別な味。
ヨーグルトにも、食パンにも、ハンバーグにも。
どんなものにも合わせられる、特別な味。
今日も、
とろーりと、
誰かの心を癒すハチミツ。
優しくて甘くて、
お花の香りを纏いながら。
(完)
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