わっと
1月も下旬になりボクの部屋にも寒気がやってきた。朝目が覚めて気温計に目をやると針が5度を下回っていることも珍しくない。吐く息は煙のように白くなる。
これだけ寒いと布団から出るにはすこしばかり心の準備が必要になってくる。ボクは10分くらい頑張ってようやく決心を固めると、足元でまだ温もりをたたえている湯たんぽを抱え布団から出て、石油ストーブに火をつけ、魔法瓶に入っているお湯でインスタントコーヒーの粉を溶かしすする。
そこでようやく朝食を食べようというエネルギーがわいてくるのだが、この時期にはハチミツトーストを食べることがままある。冷え切った体にバターとハチミツの甘さがうれしい。なにより手軽だ。
こうして朝にハチミツトーストを食べるようになったのはいつからだろうとあらためて考えてみると、どうやらそれは大学に入ったばかりの頃だった。
大学に入りボクは初めての一人暮らしを始めた。当時のボクに朝食をとる習慣はなかった。というより余裕がなかった。大学は実家から遠く離れた北国で、慣れない環境の中、新しいことが次々に通り過ぎていく日々にボクはついていくのがやっとだった。朝食を取るためには時間の余裕だけでなく心の余裕も必要らしいと気付いたのはこの頃だった。
そんな毎日を送っていたことを母はお見通しだったようだ。大学に入って1ヶ月ほどたったある日、実家から大きな段ボール箱が送られてきた。中には米やレトルト食品などと一緒に1リットルのボトルに入ったハチミツが入っていた。
同梱されていた手紙には「朝は忙しいだろうけど、ハチミツトーストくらい食べなさい。」というようなことが書いてあった。
その時は母への感謝より疑問のほうが大きかったように思う。
「こんなにたくさんのハチミツをどうやって使い切れと言うのか。そもそもなぜハチミツなのだろう。」
一人暮らしを始め一丁前の大人になった気でいたボクは、半ば母に反抗するような思いでしばらくはそのボトルに一切手をつけず棚の隅に置いていた。けれど、四畳半ほどの小さな部屋で1リットルの大きなハチミツボトルの存在感は無視するにはあまりに大きかった。ある朝渋々パンに塗って食べ始めた、というのがどうやら事の始まりだったようだ。
あらためて思い返してみると、大学時代ボクは規則正しいとは程遠い生活を送りながら一度も健康を損ねることなく卒業することができた。
それがハチミツのおかげであるかと問われると疑問ではあるが、すくなくともこうした母の心遣いの積み重ねのおかげであることは間違いなく、あらためて感謝の思いがわいてきたところで文を締めることにする。
(完)
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