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蜂蜜エッセイ応募作品

琥珀色の魔法

もとのぶ

 

「いつもの、のみたい」

今年で七歳になる娘は、熱を出すと決まってそうねだるようになった。

「ちょっと待っててね」

娘のお気に入りのカップに熱々のお湯を注ぐ。そこにとろりと重みのある琥珀色の液体をたっぷりと落とした。スプーンで丁寧にかき混ぜると湯気とともに懐かしい香りがふわりと立ち上がる。

熱いから気をつけてね」とカップを手渡すと、元気のなかった瞳にぽっと小さな灯がともる。両手で大事そうに抱え、小さな唇を突き出してふーふーと懸命に冷ます姿が愛おしい。もういいかな、とそっと口に含んだ娘の顔にはとろけるような笑みがこぼれた。

それは、お湯にはちみつを溶かしただけのシンプルな飲み物だ。けれど私にとっては、娘と私、そして私の母を繋ぐ特別な魔法でもある。

娘が四歳のとき、熱と喉の痛みで泣きじゃくっていたことを今でも鮮明に思い出す。食欲がない娘のためにゼリーやヨーグルトを準備するが、飲み込もうとするだけで痛いという。

「なにもたべられない!」

わんわんと泣く娘になにかできないか。ふっと頭をよぎったのは幼少期の記憶だった。私もまた、喉を腫らして泣いていた。そんな私に母が用意してくれたのが、生姜の入ったはちみつ湯だった。

「体があったまるからね」

一口飲むと、ピリッとした生姜の刺激のあとに、はちみつの濃密な甘さが口いっぱいに広がった。熱を持った喉を優しく撫でていく。体の中からじんわりと熱が溶け出し、母の優しさに包まれたようだった。

さっそくはちみつ湯を作ると、真っ赤に腫らした目で、「これなあに?」と娘が聞いてきた。

「パパの大好きな魔法の飲み物だよ」

スプーンですくって近づけてあげる。すると少し躊躇しながら口をつけ、目を見開いて、「おいしい」とつぶやいた。

「喉は大丈夫?」と尋ねると、そこで初めて気づいたのか、「いたくない!」と驚いたように言い、更に一口、二口と飲んでいく。まだ涙のあとがついた顔で、「これすき!」と満面の笑みを浮かべた。その笑顔を見たとき、かつての母の心境が痛いほど理解できた。

「パパも子供のときに、ばあばに作ってもらったんだよ」

「じゃあ、ばあばにもありがとうだね」

後日、母に電話をして娘とのやりとりを伝えると、「そんなことあったかしら」と笑いながらとぼけていたが、どこか弾んだ声だった。

いつかこの子が大人になり、大切な誰かが痛みや不安に震えているとき、同じように台所に立ち、はちみつに手を伸ばすだろう。「いつもの」という言葉とともに、この琥珀色の甘い記憶が、また次の世代へと受け継がれていく。

(完)

 

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