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蜂蜜エッセイ応募作品

一升瓶のはちみつ

くろねこ

 

私が子どもの頃、父がどこからかはちみつをもらってきた。

スーパーなどで見かける、瓶やプラスティックボトルではなく、それは一升瓶に入っていた。

お酒が大好きな父だったので、その日もあのへんな味とにおいの液体が入っているのだと思い、うえーっと舌を出した。

そんな私に父は割りばしを持ってきて、一升瓶の中につっこみ、きらきらしたはちみつをまとわせた割りばしを私に差し出した。

甘いにおいに誘われて、口にしたそれは、うっとりするくらい甘く幼い私は夢中になった。

もっと欲しい、とねだる私に、父は「今日はそれで終わり!一度口にいれた箸は瓶に入れたらだめ!」と言った。

私がはちみつを口にしたのはこれが初めてのことだったと思う。

父と母が、赤ちゃんにはちみつを与えてはいけないというのをどこかから聞き、少しでも危険性があるのなら5歳まで与えないと決めていたようだった。

今と違って情報は全てテレビや知人から得るしかなかったのだ。

砂糖ともちがう、ねっとりとした濃厚な甘みに魅せられた私は両親の目を盗んでははちみつを舐めた。もちろん、きれいな割りばしを使って。

父に「あのお酒の瓶に入ったはちみつ、美味しかったねぇ」と言うと、父は「初めて食べるもんやけん、ちゃんとしたもんがいいやろう」と笑った。

私に初めて食べさせるはちみつを知り合いの養蜂家に譲ってもらったらしかった。

一升瓶に入ったはちみつは、私にとって大きなインパクトを与え、今でもあの大きな茶色い瓶には甘くておいしいものが入っていると刷り込まれている。

その美味しいはちみつをわけてくださった養蜂家の方も、現在は廃業されたとの事で、残念ながら幻の味となってしまったが、あれから何十年も経った今でも、はちみつをたっぷりとかけたパンケーキは私の大好物だ。

風邪をひいた時、母がつくってくれたはちみつ生姜紅茶も冬になると自分でつくって飲んでいる。

時々、あの頃のことを思い出して割りばしをはちみつにからませて、舐めてみる。

その度に、舌の上で広がる甘さが、私に向けてくれた両親の愛情を思い出させてくれる。

私が社会に出て時折感じる、不安や不条理たちがこの甘やかな記憶によって和らげられる。

私は両親に愛されて育った。この確かな記憶は、これからもずっと私を強く支えてくれる。

幼い頃の記憶は、はちみつのように甘く、そして時にはプロポリスの抗酸化作用のように憎悪や嫉妬といった感情からも私を守ってくれるお守りなのだ。

(完)

 

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