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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

母の大根飴

むにえな

 

子どものころは大根飴がごちそうのひとつだった。風邪を引いたときは母が作ってくれたりんごジュースと大根飴が子どもながらも甘くておいしいものだった。考えてもみれば体にいいものを食べさせてたのだろうけれど同時においしいものをあげようという親心だったのだな、と気づいたのは私もだいぶ歳をとってからである。あの頃はただ、風邪を引くとお母さんは優しくなるし甘くておいしいものが食べられてちょっと楽しかったりしたものである。風邪で熱を出している子どもを見る母親の気持ちはもちろんのことながらなんら気にもしていなかった。親の心は子が知らないというのもうなずける話だな、と気づいたのもこれまた私が歳をとってからのことである。

幼い頃を過ぎた私はもう風邪のときは錠剤などの薬を飲むようになっていたのだった。なんなら科学にかぶれていたので病院での薬のほうがだんぜん効くだろうと思っていたものである。お医者さんが出してくれた薬は確かによく効いて私の生活もよくなったし、なんなら大人になるにつれて体も丈夫になっていった。そうそう風邪など引いてられなくもなったのである。それに蜂蜜は使い道が分からなくてそうそう買ったりもしないのである。メープルシロップならホットケーキにかけたし、なんならケーキシロップみたいなものならさらに安くて手軽に買えたのだ。蜂蜜は寒くなると白く固まるし使いにくかったのもある。蜂蜜とは縁のない生活を何十年も続けていたのだった。

私も中年になったころ、もう年老いた父が蜂蜜の大瓶を買ってきた。父はこういうときけっこう思い切った買い物が好きなのだ。正直なところ蜂蜜の使い道なんて分からない。「こんなに大量の蜂蜜をどうしよう」と考えた結果、しばらくして喉がイガイガしたときにふと思い出して大根飴を作った。畑でとれた大根を角切りにして蜂蜜を注ぐ。冷蔵庫にそのタッパーを入れておく。大根はしぼんでいき蜂蜜にもさらっとした汁が増えてくる。そのまましばらく置いてから汁を飲む。想い出ほどには甘くないけれど、ああ、あのときの狭い家での母の手を思い出すようだった。高価なごちそうを喜ぶ生活、しかもそれすらだんだんと当たり前になってきて感動も薄れていた生活だったけど、手作りのこういうごちそうを喜ぶ日がまた来るとは楽しいものである。家族が風邪を引いたら大根に蜂蜜を注ごうかな。

(完)

 

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