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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

みつばちの記憶

ミリ

 

昔々、私がまだ幼い子どもだった頃のこと。

夏の夕暮れ、風呂上がりに母が畳の上に広げてくれた、洗い立てのパジャマ。石けんの香りと日差しをたっぷり浴びた布の匂いが心地よく、私は嬉々としてそのズボンに足を通した。

けれども次の瞬間、思いもよらぬ出来事が待ち受けていた。太もものあたりに、針で突かれたような鋭い痛みが走ったのだ。「チクン!」という感覚に、私は驚きと恐怖で声を上げ、思わず泣きべそかきながらズボンを慌てて下ろした。すると中から、小さなミツバチが一匹、必死に羽音を立てて飛び去っていった。洗濯を干している際に紛れ込んでいたのだろう。

「ハチに刺されたー!」と泣き叫ぶ私。その声に反応して、母が台所から飛んできた。母の顔には焦りと心配が色濃く浮かんでいた。けれども次の瞬間、母が発した言葉はあまりにも予想外だった。「弟におしっこをかけてもらいなさい!」と真剣な顔で告げたのだ。

私は、チクチクじんじんと足全体に広がっていくかのような痛みが怖く泣いていたのだが、その突飛な指示に一瞬、泣き声が止まった。

隣にいた小さな弟は、ぽかんと口を開けて母と私を交互に見ている。母は本気でそう言っているようだった。ハチに刺されたらアンモニアが効くという迷信を信じていたのだろうか。幼い私にとっては、驚きと戸惑いが入り混じる、何とも言い難い複雑な気持ちで痛みに耐えていた。

そこから先の記憶は曖昧だ。果たして弟は本当に私の足に尿をかけたのだろうか。それはもうなぜだか思い出せない。ただ、痛みと母の慌てふためく姿、小さな弟のきょとんとした表情、そして私の頭の中に焼きついた「おしっこをかける」という奇妙な提案。その一連の強烈な出来事は、幼き日の忘れられない思い出として、今も私の記憶の片隅にひっそりと残っている。

(完)

 

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