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蜂蜜エッセイ応募作品

私だけの変則晩酌

松本俊彦

 

 私には、若い頃から菓子を買う習慣がない。菓子は大好きなのだが、子供の頃には親が、結婚してからは妻が買ってくる菓子を食べるだけであり、自分で菓子を買うことはない。いや、菓子だけではない。そもそも食品を買うことがない。
 十六年前、単身赴任をした。会社の寮で一人暮らしである。それでも、食品を買わない私の習慣は変わらなかった。平日は、三食とも会社の社員食堂で食事をした。会社の休みの日には、さすがにスーパーで食品を買ったが、それでもその日に買う分しか買わなかった。だから、寮の私の部屋には食べるものが何も置いていなかった。
 その日は、無性に腹が減っていた。仕事が終わって部屋に帰って、洗濯をして風呂に入って、その後テレビのグルメもののドラマを見たのがよくなかった。猛然と食欲がわいてきてしまった。それが夜の八時頃。翌日の朝食まで、まだ十一時間もある。我慢できそうにない。しかし、もう風呂にも入ってしまったし、今から外に買い出しに行くのも面倒だ。そもそも、こんなことでいつものペースを崩したくない。深いため息をついたとき、私は空っぽの冷蔵庫の上にそれがあることに気が付いた。チューブ入りのハチミツである。休日、パンはその日に食べる分しか買わない。しかし、パンにつけるハチミツは、その日つける分しか買わないというわけにはいかない。だから、それがそこにあったのである。これだと思った。これしかないと思った。一人暮らしだから気にしない。チューブに直接口をつけて、それをすすった。甘い。うまい。糖分は体にとってのエネルギー源だと言うが、そのとおりだと思った。ハチミツの糖分が、口から直接脳にまわって、脳細胞を活性化させているような気がした。それから、それが半ば習慣化した。夜、口寂しくなるとハチミツに手がいくようになった。しかし、この私だけの変則晩酌のことは、誰にも言っていない。

 

(完)

 

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