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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜のおじさん

大月 桂

 

 「蜂蜜のおじさん」我が家でそう呼ばれている。わたしは、顔も名前も知らない。
 数年前、和歌山から我が町へ養蜂家として移住して来たという。知人の紹介で父の商売のお客様となって下さった。
 ある時、しばらく連絡が無かったことがあった。
 久しぶりの連絡に、母が心配していたと伝えたところ、なんと、大瓶一杯の蜂蜜を下さったのだ。
 わたしは、こんな大瓶になみなみと艶やかに入っている蜂蜜を見たことがない。これだけの蜂蜜を採るのに、どれだけの労力が掛かっているのだろう。蜂蜜何匹分の働きだろう。と、野山を飛び交う蜜蜂に想いを馳せた。
 「少しずつ大事に食べること」
 父の厳命をよそに、母とわたしは、心の中で「いただきまーす。父さんごめんね」と、毎朝、一匙、二匙、食パンに塗って食べた。
 こんがり焼いた食パンに、バターを少し、そこにゆっくりかけるのだ。黄金色の甘やかなかおり。毎朝が楽しくなった。
 こっそり蜂蜜を食べたことは棚に上げ、「なにか蜂蜜のおじさんにお礼をしなきゃ」と、父に言ったが、返事は曖昧。
 それからしばらく後、八十歳の父が突然の大病により、六十二年やってきた生業をパタンと閉めた。幕引きは、ビックリする程すばやいものだった。
 それ以来、我が家と蜂蜜のおじさんとの接点は無くなってしまった。
 スーパーで整然と並ぶ、きれいなパッケージの蜂蜜の瓶。一言で黄金色と言っても、濃淡は様 々。それを見る度に思い出す。おじさんの蜂蜜を。
 蜂蜜のおじさんを。
 スーパーのそれらも、いろんな人の手で採取されているのだろう。蜂蜜一瓶一瓶に、きっと小さな物語が詰まっているのだろう。と、つい想像して手に取るのだ。

 

(完)

 

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