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蜂蜜エッセイ応募作品

精一杯のレモネード

岸田 梨江

 

 ある朝、中学生の私の手を握って母が言った。
 「今日、お母さんの友達と幼稚園に行ってる子供がくるんだけどその子、砂糖アレルギーなの。」
 一拍置いて。
 「どうしたらいいと思う?」
 私は思い出した。
 私が幼稚園生だった頃、弟はアレルギーだった。
 何のアレルギーかわからないほど、何もかもがだめで、ジュースなんか買ってもらえなかった。
 私は幼稚園から帰ると、蜂蜜をポットにあったお湯で溶きレモンやオレンジを絞って飲むことが楽しみだった。
 夏は朝作って冷やしておいたし、冬は暖かいまま、蜂蜜のにおいがしてとても幸せな気持ちになったものだ。
 私はすぐに
 「わかったよ。」
 と言った。
 蜂蜜をお湯で溶きレモンを搾る。
 来るまでに時間がないというのでそこに氷を入れてピッチャーいっぱい、なみなみと水を注いだ。
 蜂蜜入りレモネードのいい香りが鼻孔をくすぐる。
 幼稚園のときの幸せな気持ちがよみがえり、少しきゅんとした。
 「こんにちはー。」
 玄関から声が聞こえる。
 母親同士での会話に花が咲いているようだ。
 私はお茶菓子のせんべいとともにレモネードをお盆に乗せ居間に運んだ。
 「うわー!』
 男の子の弾んだ声。あっという間にレモネードを飲み干す。
 その母親は用心深く様子を見ていたようだったが、アレルギーがでないことがわかると破顔した。
 「この子も喜んでいるようですし、うちでも作ってみます。」
 
 後年、学校の授業で蜂蜜と砂糖は糖の種類が違うことを知った。
 中学生だった自分に任せるとか、母も無謀だわ、と嘆息。本当に何事もなくてよかった。
 けれど、あの男の子の笑顔。甘いジュースはどれほどおいしかっただろうか。
 
 自分に子供ができた今、蜂蜜を見ると懐かしく思い出される出来事だ。寒くなったらうちの子にもレモネードを作ってあげよう。

 

(完)

 

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