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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

黒い瞳のミツバチ

麻生真世

 

 和食党の我が家の朝食も、週に一度か二度はパン食になる。子どもたちの大好物はハチミツシナモンパン。普段、和食なだけに、子どもたちのパンへの想いにも気合いが入る。6枚切りの食パンの肌に丁寧にハチミツを伸ばし、穏やかな茶色のシナモンを振る、そしてトースターに。数分後、甘く香ばしい香りと共にそれを頬張る子どもたち3人の顔。この時、子どもたちの6つの瞳は黒くキラキラとしている。
 そして、同じく、産まれたてのハチの瞳は黒くまばゆい。急に広がる世界の色を全て飲み込んでしまうほどの美しさだ。
 去年の夏のはじめ、ふとうちに訪れた可愛い訪問者に、家族五人で目を見張った。ハチが巣を作り始めていたのである。そこは、つる性の植物が巻いて、隙間なく葉をつけた赤茶けたレンガの横の黒いポストの下であった。この日から、来る日も来る日も、巣穴を下からそっとのぞき込む楽しみが我が家の日課となったのである。
 はじめは、小さくて白かったお家が、ハチたちがまるでゼンマイ仕掛けのオモチャのようにクルクルと動き回ると、巣は少しずつではあるが、それでもたちまちに拡大していった。ひとつひとつ正確な六角形を見事なまでに並べて、新しく生まれる命の崇高さを際立たせるようだ。 我が子のように毎朝毎朝顔を拝みに行くのが楽しみで仕方なくなり、時には動画さえとったほど。
 まさか、こんな訪問者が訪れるなんて期待もせず、前の冬にせっせと庭に植えた花 々が、初夏の陽の光を跳ね返す。3人の子どもたちは、時には羽根をバタつかせて威嚇されながらも、段 々とハチとの距離感を覚え、しまいには十五センチほどの距離から観察できるようになっていた。巣穴の中に丁寧に産み付けられた白い粒。何日経っただろう。産まれてきたハチは巣穴からひょっこり顔を出す。すると先にいたハチたちが群がり世話を焼く。そこには、きっと愛がある。でなければ、クルクルとひとつひとつのタマゴを何度も何度も確認したり、暑い日には羽根で扇いで巣穴の熱を冷ましたりはしない。
 「ハチも人も一緒だね。」
 ハチの巣を愛でながらそう言った私を、黒い6つの瞳が嬉しそうに見つめていた。

 

(完)

 

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