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蜂蜜エッセイ応募作品

薬のちお守り

田中 信子

 

 中国の地方都市錦州市で、二〇一五年八月、私は四十五歳にして人生初の海外生活を始めた。表向きは日本語を大学で教えるためだったが、「無料で中国語が勉強できる」という条件に惹かれてのことだ。
 日本語の授業以外の時間は、積極的に留学生用中国語クラスに参加した。クラスメートは皆アフリカ出身の二十代だったが、自国で人気のTOYOTAやNISSANの国から来た私を慕ってくれた。週末には大量のビールを彼らの寮に持ち込み、手料理をご馳走になりながら明け方まで踊り明かしたほどだ。当初は順調そのものだった。
 が、三ヶ月目に入った頃酷い下痢に襲われた。日本から持って来た薬を飲み尽くしても、中国で買った薬を飲んでも全く良くならなかった。原因は疲れとストレス。中国語のみで行われる授業についていけなくなったり…同僚日本人教師との関係がうまくいかなかったり…
 当時は無性に甘い物が欲しく、食べるたびに目が潤んだ。クッキーやチョコレート、飴、パッケージは日本と同じなのに味が微妙に違う。それが受け入れられず、余計に日本が恋しくなるのだ。
 帰国した方がいいのだろうか…そう思い始めたある日、スーパーの棚に見覚えのある小さな黄金の小瓶を見つけた、蜂蜜だ。スプーンですくって舐めた蜂蜜は、日本のそれと同じ優しい甘さだった。保温瓶に蜂蜜を溶かしたお湯を入れ授業の合間にも飲むようにすると、温かさと甘さがいいのか、徐 々に下痢は治った。蜂蜜は薬より効いた。体調が良くなっても私はしばらくの間蜂蜜を持ち歩いた。学食のパサパサの蒸しパンも、トウモロコシ粉で作られたホットケーキもどきも、蜂蜜をかければ懐かしい味に変身するからだ。
 現在、錦州市での生活は三年目。すっかり慣れ、蜂蜜のお世話になることも少なくなった。それでも冷蔵庫の上に黄金の小瓶を置いている。体調が優れない時、疲れたなと感じる時、舐めるだけでホッとする。今の私にとって蜂蜜は病気を防ぐお守りのような存在だ。

 

(完)

 

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