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蜂蜜エッセイ応募作品

エーランシャン

剣持 誠

 

 ある日、父が珍しく会社の車を借りて帰ってきた。とてつもない買い物をしたようだ。すでに眠りについていた私は、夜中の大騒動を全く知らないのだが、翌朝、テーブルには見慣れない大きな瓶が置かれていた。
 母曰く、「エーランシャン」のハチミツだとのこと。私の認識の中では、ハチミツとは水あめを薄めたようなものであり、あまりポイントの高くない食べ物であったのだが、それは全くの別物であった。液体というよりかたまりに近い状態で、私は品良く濃厚な甘さと、花のような芳香に一撃でとりことなった。
 今思えば、病弱な私に、少しでも体に良いものをと考えての大きな買い物だったのだろう。それからというもの、母は、料理に使うだけではなく、いろいろなものを漬けこんで私に食べさせた。最も強烈だったのはニンニクハチミツで、一口舐めただけで心臓がバクバク状態になったのを覚えている。
 やがて私は成長し家を離れた。ときどき、あの味を思い出し、ハチミツを買い求める。国内外、さまざまなものを試したが、そのほとんどの場合、ため息となる。なかなか感動の域には達しない。そして私は結婚し、しばらくの間実家で同居することとなった。
 新生活が始まって間もないころ、母に尋ねてみたところ、「もしかしたら」と探してくれた。しばらくして母は、小さな瓶を持って戻ってきた。ほんの少しだけ残っていたらしい。推定二十五年物であったが、「エーランシャン」は私のカムバックを温かく迎えてくれた。
 今でも、私は「ハチミツ」を衝動買いしてしまう。時折、私を感動の世界へといざなってくれる逸品に出会うことがある。口に含み目をつぶると、花の芳香、果物の風味、ブッシュのざわめき、都会を吹き抜けるみどりの風を感じるのだ。うーん、幸せだ。
 願わくば、死ぬまでにもう一度あの「エーランシャン」に出会ってみたい。そもそも「エーランシャン」とは何者であろうか。まずはその正体を探らなければならないが。

 

(完)

 

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