はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

蜂蜜エッセイ応募作品

おばあちゃんの知恵袋

遊佐亜紗子

 

 子どもの頃、祖父母と同居の7人家族だった我が家には、冷蔵庫が一階と二階にひとつずつあった。二階の冷蔵庫には梅酒やジャムなどの保存食や子どものおやつが入っていた。そして、そこには祖母の作った「蜂蜜大根」の瓶も必ず入っていた。
 「蜂蜜大根」とは切った大根を蜂蜜に漬けたもので、喉や咳によく効くらしく、咳が出ると薬の代わりに祖母が飲ませてくれた。そのまま、スプーン一杯を口に入れるときもあれば、寒い日にはお湯に溶かしてくれるときもあった。その甘さは、大根が入ることで蜂蜜とは違う独特の風味となり、祖母の優しさとともに私の喉を潤してくれた。
 いま思うと、蜂蜜に大根という組み合わせは正直、ためらいを覚えるのだが、子どもの私にとっては「蜂蜜大根」という一つのものとして何のためらいもなく、当たり前のように馴染み深いものだった。咳には蜂蜜大根、火傷にはアロエ、といったように祖母との生活には、「おばあちゃんの知恵袋」で溢れていた。
 小学生、中学生と時を重ねるうち、私は自然と蜂蜜大根を飲まなくなった。いつの間にか蜂蜜大根は、のど飴や薬へと代わっていった。祖母が蜂蜜大根を作らなくなったのか、それとも私が祖母から離れていったのか、どちらが先なのだろう。蜂蜜大根のことは大人になるまで私の記憶からすっかり消えてしまっていた。
 しかし、突如、蜂蜜大根が生活の中に現れることとなった。私の三歳の娘に会いに、母が数日間泊まりで来てくれたときのことである。娘が咳をしていると、母が「おばあちゃんが昔よく咳をすると蜂蜜大根を作ってくれたよね。」と言って蜂蜜大根を作り始めたのだ。私のなかの祖母の記憶が一気によみがえってきた瞬間だった。娘はすぐに食べたがったが、蜂蜜大根は作ってすぐ食べられるものではなく、大根の成分が溶けて蜂蜜がさらさらのシロップになるまで一日ほど待つ必要があることをそのとき初めて知った。翌日、娘はその甘い薬を嬉しそうに飲み、それを見る母も嬉しそうだった。母のいる間、娘は何回も蜂蜜大根を飲んだ。そして母は帰るときにも、娘のためにひと瓶作っていってくれた。こうして「おばあちゃんの知恵袋」が引き継がれたのだ。
 娘も大人になるまでこの「蜂蜜大根」を覚えているのだろうか。娘が蜂蜜大根を思い出すときは、「ばぁば」のことも一緒に思い出してほしい。私にとって蜂蜜大根の記憶が祖母と繋がっているように。

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

ニホンミツバチの蜂蜜

はちみつ家メニュー

鈴木養蜂場 はちみつ家/通販・販売サイト

Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.