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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

みち、はつ

矢吹崇道

 

 これは私がまだ幼い頃、実家である宮城の山の上に、住んでいた時のお話。
 台所から母が私を呼んだ。向かってみると母は、銀色のスプーンをこちらへ差し出し「食べてごらん」と言う。
 スプーンの上には、電球の光に照らされ、金色に光り輝く透き通った液体が乗せられていた。言われるがままに、スプーンを口に運んだ――瞬間、鼻の奥に、ドロッとした、チョコとは違う甘さの液体がまとわりつく。でろでろで、どろどろの甘い液体。
 鼻水だ! そう思い、私は涙目になりながら必死に口をゆすいだ。
 母はそんな私を見て、笑いながら「八密だよ」と言っていた。

 次の日。母に引きずられるようにして、コーヒー屋に行った。庭遊びを中断され、少しむくれている私を横目に母が注文したのは「チーズピザ八密」。正直自分は、あの甘いどろりとした液体が好きではなかった。「八密」という単語を聞いた時点で、もう帰りたいとすら思っていたし、その組み合わせからも、胃から酸っぱいものがせりあがってくるような気さえしていた。
 出てきたのは、薄くカリカリとした生地にこれでもかとチーズと「八密」が乗った、白色の円盤。母に「これで最後だから。ね、食べてみて絶対美味しいから」と言われるがままに、渋々切り分け、伸びるチーズに苦戦しながらもそれを口に運んだ。
 ――おいしかった。甘じょっぱくて、チーズのとろとろと「八密」のとろとろ、生地のカリカリが合わり、絶妙なバランスを保っていて、すごくおいしかった。
 母は、目をむく私に「ほらいったじゃーん」と、にやにやしながら説明をしてくれた。私が今まで思っていた「八密」ではなく、「蜂蜜」だということ。正体は蜂さんが頑張って集めてくれた花の蜜であり、栄養価がとても高いものであること。
 母の説明を受け流しながら、チーズピザ蜂蜜を頬張ったあの日から、私は蜂蜜が大好きになった。

 蜂は賢い。こちらから攻撃しなければ攻撃してくることは滅多にないし、室内に入ってきても、窓を少し開けてやれば、自分から出ていく優しい虫だ。世間の人が、蜂を無駄に怖がる意味が昔からよくわからなかった。もしこれが「アブミツ」とか「ハエミツ」とかだったら、きっと今も私は好きになれていなかっただろうなとは思うけれど。

 

(完)

 

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