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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

琥珀色の幸せ

 

 まだ幼かった頃の私にとって、はちみつは無くてはならないものだった。風邪をひく度げほ、げほ、と痰の絡んだ咳を繰り返す私を母は困ったように見つめていたが、それが長引くと農協ではちみつと大根を買ってきてそれを一晩漬け込んで「はちみつ大根」を作ってくれた。明確なレシピも無いような簡素なものだったが、優しい甘さとひんやりとした喉越し、そして母の愛情を感じるその味が私は大好きだった。「少しずつ口に含んで、ゆっくり飲み込むのよ」母は私の頭を撫でながら笑顔で言った。夏は氷を入れてみたり、冬は生姜も一緒に漬け込んだり、私のためを思って為される工夫が堪らなく嬉しくて、いつか私が母になったら自分の子にも同じように作ってあげよう、と思ったものだった。
 成長するにつれて風邪をひく頻度は減っていったが、冬は乾燥するからか咳をする機会も多く、私は扇雀飴本舗の「はちみつ100%のキャンデー」を携帯するようになった。その包み込むような甘さに母のはちみつ大根を思い起こすため、よく口に含んでいたように思う。ふわりと鼻に抜けるはちみつの香りは高校受験で追い詰められていた私を慰め、頑張るための力をくれた。受験直前の冬の日、かじかんだ足先と背に感じるヒーターの熱、そして舌に触れる飴の冷たさ。永遠に終わらないように感じられたその時間が、今では懐かしいとさえ思う。
 また、高校に入って始めた趣味の一つにお菓子作りがある。食べたいものを食べたい時に作るといった気ままなものだが、マドレーヌやケーキなど色々なお菓子を作ってみるのは意外と楽しく、疲れた時に甘いものを摂取するという意味でも良い時間である。一般的に広まっているレシピの多くは上白糖やグラニュー糖などを使うが、自分でも何度か作っていくうちに、砂糖をはちみつに代えて作ると、はちみつの香りとバターの香りが相まって風味豊かで美味しいお菓子が出来上がるということを知った。時々、作ったお菓子を友人にプレゼントするのだが、「優しい味がするね」と言ってはにかんだ顔はきっと大人になっても忘れないだろう。
 母の愛情の形として、受験を乗り越えるお守りとして、そして友人と私を繋ぐ架け橋として、はちみつは様々な形で日々に寄り添っていてくれた。パンやホットケーキに乗せるだけではなく、紅茶に入れてみたり、ヨーグルトにかけてみたり、他にもまだまだ私が知らないような使い方がたくさんあって、きっとその一つ一つが誰かの生活を支えているのだ。誰もが持つ物語の片隅にはちみつの存在があることは、なんだか少し素敵なことのように思う。

 

(完)

 

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