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しあわせの色

紙魚

 

 6時30分起床。身支度を整える間に湯を沸かす。紅茶に砂糖を入れる。スプーンに山盛り1杯、2杯、3杯。これが私の朝食。
 もともと食への興味が薄い。一人暮らしを始めて、平日2食、休日絶食という生活を続けていたら体重が3kg落ちた。これは良くないなと思うものの、作るにも食べるにもエネルギーが必要で、費用もかさむので、重い腰はなかなか上がらなかった。特に朝食は時間もないので省略しがちだ。
 実家にいた時、母は食の細い私に朝食を食べさせるため、いろいろと工夫をしたらしい。一口サイズのおにぎりや、シリアル、手軽なものを並べた食卓。一番食いつきがよかったのはホットケーキだったそうだ。バニラエッセンスと小麦粉の香りに鼻をくすぐられて目を覚ました日は何かいいことが起こる気がした。
 そんな話をパートナーにしたら甘やかされていると笑われた。週末を彼と過ごすようになって数か月。よく食べる彼につられて体重も戻ってきたころだった。
 「でも、俺も甘やかしてるなあ」と彼はまた笑う。笑いながら作っているのはホットケーキ。それまで台所に立つことのなかった彼が、初めて一人で作れるようになったもの。メイプルシロップ派だった彼に、はちみつバターの罪な味を教えたのは私だ。大きめにカットしたバターが焼きたてのホットケーキの上で溶けて、はちみつと絡み合う。しあわせの色はなにかと聞かれたらこの黄金色だと答えるだろう。今日の紅茶は砂糖を控えておこう。甘い甘い朝食から一日が始まる。

 

(完)

 

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