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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

魅惑の巣蜜

マサトミ

 

 そもそもハチミツは我が家のテーブルに並んでいるものだった。大工の父が休日を利用して建てた家へ家族で引っ越して以来、アパート暮らしの生活がハイカラ志向に様を変えたのは母によるところが大きかった。手作りドーナツやホットケーキがおやつに出され私と弟は大喜び。そこへハチミツの魔法が掛けられると周囲の景色がぼやけるほどに集中したものだ。
 新築の間は張り切っていた母も住み始めて年月が経つうち少しづつ通常モードにフェードアウトされ、やがて仕事に就くと日々の忙しさでドーナツやホットケーキの出番が少なくなった。同時にハチミツも役目を終えたかのように見なくなった。子供心にはまたハチミツが戻ればいいなあと願っていたが、我が家は君主の母に絶対服従だったので、しつこくねだって機嫌でも損ねたら一週間はとばっちりを受けてしまう。
 しばらくして復活したのは、朝は和食一辺倒だった父が、突然パン食を好みだしたせいだ。今考えてみたら母の司令だったのかもしれない。バターやマーガリン、ジャム、そして久しぶりに会わせて貰ったハチミツ。これらを組み合わせて食パンに塗っていただくわけだが、この習慣が根付くと食パンのみをトーストして食べても何か物足りない。この頃には私たちも成長し、ハチミツをこぼさないようトーストに乗せられたので母は関せず、ハチミツ三昧を堪能できた。
 そういえば、家族旅行に出掛ける際、みつばちが家の中へ紛れ込んでいるのを知らず、三日後に帰ってきた時、私の部屋で息絶えていた。じんわり涙がにじんで悲しかった記憶がある。うっかり屋の弟がハチミツの瓶のふたを開けたままにしていたら、命をつなげたかもしれないと思った。
 ある日。ハチミツしか知らなかった私たちに衝撃の事件が起きる。頂いた包みの中から出てきた物体。これは本当に食べられるものなのか。家族で覗き込み唸った。 みつばちが貯蔵した自然のままのハチミツ。つまり巣ごと食べるハチミツというのだ。ツバメの巣なら聞いたことあるが、うち的には前代未聞。然るべき方々の稀な嗜好で召し上がるものではないかと家族会議の場となった。
 しかし人はすぐに慣れるようで、形体はともかく色がきれい。美味しそうにも見えてきた。お値段も張るらしい。それぞれが意を決して一片を口に運ぶ。「?」と「!」が無言で語られた。何とか表現するなら、たった今収獲したばかりのハチミツが口の中で飽和状態。そんな感じだった。
 この経験はただ一度しかなく、その後いつものハチミツに親しんでいるのだが、時にはあの魅惑の巣蜜。また届けて下さらないかしらなんて心待ちにしている。

 

(完)

 

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