はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

蜂蜜エッセイ応募作品

俺は、ハチミツ太郎

まな板でここ

 

 俺はハチミツ太郎、三十五歳の男だ。もちろんあだ名だ。このあだ名がついた経緯について話そう。
 あれは、高校生のとき、クラスメイトで部活も同じバドミントン部の斉藤と、放課後ファミレスに行ったときだった。部活でしこたま汗を流したあとだったから、俺たちは腹を空かせていた。斉藤はメニューを開くや否や、肉だ肉とつぶやいていた。
 ハンバーグ、グリルチキン、ステーキ。美味そうな肉料理がたしかにいくつも並んでいる。
 だけど俺は、前々から気になっているメニューがあった。

 ハニートーストだ。
熱々の食パンに、バニラアイスクリームを半円上に載せて、その上からまんべんなく蜂蜜がかけられている。
ごくり、とのどが鳴った。やはり、俺の気持ちはこいつを求めている。
しかし、男子高校生が、こんなもの頼んで良いのか? いや、斉藤と一緒だし、店員にもそこまで不審には思われないだろう。俺は意を決して「ハニートースト」を注文した。斉藤も、いいね、一口ちょうだい。と言っていた。よかろう、俺も肉は肉で食いたい。

 十分ほど待って、斉藤が頼んだ目玉焼きハンバーグよりもいくばくか後に、やっとハニートーストが届いた。
やった、やっと食べられる、と思ったときだ。俺はすぐに違和感に気づいた。
「蜂蜜が、かかってない」
ハニートーストなのにもかかわらず、蜂蜜がかかっていないのだ。どうしてだ。こんがりと焼かれた厚切りのトーストの上には、白いアイスだけがぽつんとたたずんでいた。
どうした、と斉藤が疑問の声をあげた。戸惑う俺に「食べないの?」と聞く。
「いや、蜂蜜がかかってないんだ」と俺は説明した。
「え? 本当だ」
「本当だ、じゃない。大問題だ」
俺は拳を握りしめた。
「そんな大声出さないでって、十分美味しそうだよ」
「ふざけるな、蜂蜜がかかってこそのハニートーストだろう」
「お、怒らないでって。そんなことで」
「そんなことだって」
俺の大きな声を聞きつけたのか、もしくは厨房でのミスに気づいたのか、店員が「申し訳ありません」とかけつけた。
無事蜂蜜のたっぷりかかったハニートーストをいただいた俺だったが、蜂蜜で激怒する男子高校生として「ハチミツ太郎」というあだ名をつけられてしまった。
高校生のことで、もうずいぶんと前の話なのだが。
「はい、ハニートースト作ったわよ。しっかり蜂蜜はかかってるから安心して」
にやにやと、斉藤――いや旧姓で今は俺と同じ苗字になったのだが――が、俺に日曜日のデザートを作ってくれる。
「そんな強調しなくても」
「だってあんた、蜂蜜かかってないと大声で怒鳴るし、ハチミツ太郎だし」
くっ、と顔を赤くして俺は歯ぎしりする。こんなことなら、一人でハニートーストを食べにいけば良かった。
女子と行けば恥ずかしくないかと思ったが、余計に恥をかくはめになるとは。

 けれども、一人だったら蜂蜜のかかっていないような人生を送っていたかも知れない。
俺はそう思いながら、たっぷりと蜂蜜のかかったハニートーストにかぶりついた。

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

ニホンミツバチの蜂蜜

はちみつ家メニュー

鈴木養蜂場 はちみつ家/通販・販売サイト

Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.