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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜と夏の夕日と女の子

藤田徹郎

 

もう少しで還暦になるので、かれこれ50年も前のことです。私の家の隣に同い年の女の子が住んでいました。家が隣だけに物心ついた時から仲良しでした。学校へ行くときも、学校から帰るときも、いつも一緒でした。私は学校から帰ると毎日のように、隣の女の子の家に遊びに行っていました。遊びに行くと女の子のお母さんが、いつも蜂蜜をお湯で溶かして甘い飲み物を作ってくれました。私はその甘い飲み物が好きでした。ずっと飲めればいいと思っていました。ところが小学5年の夏休み、女の子の体の容態が悪くなりました。生まれつき心臓に疾患があり、それが急変したのでした。女の子は夏休みの終わりに、東京へ行って大きな病院で手術することになりました。私と父は東京に向かう日、駅まで見送りに行きました。クラスの友達もおおぜい来ていました。電車の窓から女の子は、大きく手を振っていました。私の方を見たとき、夏の夕日が頭の上の吊り輪を照らし、女の子は天使のように見えました。隣にいた父に「真澄ちゃん、僕に今お別れをしたみたい」と言うと父は何も言ってくれませんでした。それから2ヶ月後に女の子は亡くなりました。後で父から本当に難しい手術だったのです。それでも女の子は、みんなと騒いだり、運動したりしたくてこの手術に挑戦したのでした。50年経った今でも、蜂蜜を溶かして飲んでいると女の子のことを思い出します。私が今も飲んでいる、蜂蜜のように甘い思い出と軽くは言うことはできませんが、、、。

 

(完)

 

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