我々は、地球侵略を目論む雀蜂星人から人類を守るために組織された「地球防衛軍雀蜂駆除隊」である。
今回の雀蜂巣営連絡を受けたのは3日前の午前中のことだった。
「た、助けて下さい!大きな蜂が屋根のところに巣を作っているんです!」
連絡を受けたケン隊長は、さっそく現場に急行した。
我々の任務は、雀蜂の巣を駆除・撃滅することである。
通常、住民から連絡が入ると現地に赴き、敵の巣営状況を細かに確認し、最も有効な駆除手段を導き出し、万全の備えをして敵との戦いに臨む。
あるときは藪の中、あるときは屋根裏や壁のすき間、またあるときは土や木の中と、やつらは神出鬼没に現れて、我々人類を脅かしているのだ。
偵察に向かったケン隊長の話によれば、今回の敵は比較的小さなキイロスズメバチ星人で、2階屋根軒下の高い場所に巣営しているため出動人員は2名必要とのことだった。
それにしてもこの目つき、顔つき、、、見れば見るほど恐ろしい。
「はちぶん隊員、出動を要請する!」
隊長から指名されたのははちぶんである。
このたび、我々と雀蜂星人との交戦の様子を手記に残しておこう。
昼11時、ケン隊長とはちぶんは、雀蜂装甲車に梯子や必要な荷物を積み込むと、敵陣に向かって出動した。
今年は昨年に比べ、雀蜂の出現回数は少ない。
雨が多かったのと、比較的気温が低かったためだろうか、敵の活動もにぶったのだろう。
それでもケン隊長は今年だけで40回くらいは出動している。
天気は晴れ―――。
雀蜂装甲車はやがて小布施町の高齢者施設に到着した。
「高齢者が集まる場所に侵略を目論むとはふてえやつらだ!」
二人は装甲車を降り、さっそく敵陣の様子をうかがった。
2階屋根の下、、、「あった!」
直径3、40センチはあろうか?
敵ながらあっぱれな陣所である。
あんな高い場所に陣を張り、上空からお年寄りを狙っているのだ。
「これから梯子をかけてあそこまでいく!」
ケン隊長は余裕の表情を見せて笑い、続けて、
「万一、敵に襲撃され負傷しても安心しろ。隣は病院だ」
と言った。
なるほど、見ればすぐ隣には小布施町の大きな病院がある。
隊長!そりゃねえっすよ!
二人の隊員は日差しが照りつける中で防護服を装着した。
やつらは白い物体には攻撃をしかけてこない。
これを着ればたいていの攻撃を防ぐことができるはずなのだ。
装甲車から梯子をかかえ、屋根に立てかけ、ゆっくりと敵の巣に向かって進みだした。
屋根の傾斜は大きく、足を滑らせればそのまま地面に転落するだろう。
高所恐怖症のはちぶんは足をすくませながら、一歩一歩足場を確認しながら隊長に続いた。
毒ガスを吹き付けて撃退・駆除する方法もあるが、我々の捕獲手段は、可能な限り生け捕りである。
やつらのタマゴや子どもは調理すると意外に美味で、駆除作戦の副産物になるからである。
隊長は敵陣のすぐ手前まで近づき、「見ろ!」とばかりに入り口を指さすと、すかさずそこをめがけてティッシュバズーカー砲を打ち込んだ。
ティッシュバズーカーは見事入り口をふさぎ、敵の出入りを封じ込めた。
さすが、その手際の良さは、泣く子も黙る雀蜂仕事人と呼ばれた隊長である。
巣の周りには、まだ我々の襲撃に気付かない者たちが、巣作りに余念がない。
「今だ!」
続いて巣ごと捕獲袋ををかぶせ、一気に生け捕りにするのだ。
落ちた!
隊長は、砕けた巣から飛び出すキイロスズメバチの大群を逃さないよう、袋の口を紐で結んだ。
そこまでの作業時間はほんの数分。
無事捕獲成功である。
巣がなくなったことに狼狽するキイロスズメバチ星人たちは、しばらく周辺を飛び回るが、2、3日もすればやがてどこかへ行ってしまう。
まだ終わりではない。
周辺を探索している雀蜂星人たちの逆襲があるかもしれないからである。
壁にこびりついている巣の根元を鉄べらで落とし、タワシでごしごししてキレイにする。
ここに巣を作ったということは、やつらにとってここは巣をつくりやすい場所であるということで、再び同じ場所につくることもよくあるのだ。
だから再び巣営しないように毒薬剤を吹き付けておく。
最後に屋根に落ちた巣のかけらをほうきとちりとりで片付けて作業完了である。
「これでまたひとつ、地球の安全が守られた!」
誇らしげなケン隊長は青空の下で思うのであった。
駆除が終わってすっかりもとどおりになり、これで高齢者も患者さんも安心して外を歩けるだろう。
ご覧いただこう、今回捕獲した敵の一兵が、するどい武器をむき出しにしたまま死んでいた。
このお尻の鋭い針で刺されれば、人間などひとたまりもないのだ。
とにもかくにも、怪我なく任務を遂行できたことを喜び合いたい。
我々「地球防衛軍雀蜂駆除隊」の活動はまだまだ続く。
皆様も雀蜂星人を見かけたら、お近くの駆除業者へ連絡してほしい。